西日本新聞　社説

　東京一極集中の是正に、本当に効果があると思ったのだろうか。ピント外れの発想にため息が出る思いだ。 　政府は東京23区に住んでいるか通勤している女性を対象に、結婚を機に地方に移住すれば支援金を出すことを検討していた。 　内容が明らかになると、批判が一気に広がった。未婚女性だけをお金で地方へ動かす方策に、国民の共感が得られるはずもない。政府が取りやめるのは当然だ。 　現在も似た制度がある。東京23区の居住者、または東京圏（東京、埼玉、千葉、神奈川の4都県）から23区に通勤する人が、転居先の地方で就業や起業をすれば単身者には最大60万円を支給している。 　新たな支援金はこれを女性に絞って拡充し、移住先で仕事することを条件としない。「移住婚支援金」と呼ばれるゆえんだ。 　婚活イベントに参加する際に交通費を支給する構想もあり、2025年度予算の概算要求に盛り込む方向だった。 　政府は14年、地方創生の目標の一つに東京一極集中の是正を掲げた。10年間で成果はほとんど出ていない。 　むしろ、23区を中心に一極集中は加速している。昨年は東京圏への転入者が転出者を12万人以上も上回った。 　転入者は男性より女性が多く、進学や就職を機に地方を離れる傾向がある。東京圏は未婚女性が増え、全国でも特に出生率が低い。 　政府はこの実態に着目し、女性限定の支援金をつくって結婚と地方移住を促そうとしたのだろう。東京一極集中や少子化の解消策を未婚女性に求めるのは間違っている。 　政府が取り組むべきは一極集中の構造にメスを入れることである。危機管理の面からも放置できない。 　政府機関や大企業が集中する現状は、首都直下型地震をはじめ甚大な自然災害に対して脆弱（ぜいじゃく）だ。過度な人口密集は人的被害を拡大するリスクをはらむ。首都機能の不全は全国に影響する。 　高層ビルやタワーマンションが林立する開発をいつまで是認するのか。人口減少が想定より早く進む将来を考えれば、国土全体を見据えた人口政策は急務である。 　政府がまとめた地方創生10年の総括文書は分析が甘い。東京圏から地方へ人の流れをつくることができなかった真因を追究し、一極集中是正に取り組み直すことを次の政権に求めたい。 　地方も当事者である。傍観してはならない。 　多くの女性が東京を目指すのは進学や就職の選択肢が豊富で、待遇も良いからだ。古びた性差意識が根強いと、自分らしく生きる希望を持てないだろう。 　もちろん女性だけの問題ではない。東京並みの収入を得られなくても、多様な生き方を選べ、豊かに暮らせる。そのような地域づくりの工夫を凝らす必要がある。