ひきこもりは「甘え」なのか? NHK『ひきこもりラジオ』が伝える当事者たちのリアル
■なぜメッセージをひたすら読むのか ――栗原さんは初回からMCを務めていますが、ひきこもり問題を報じるのではなく、ひきこもりの方に向けた番組という珍しい内容で、ここまで続くとは思っていましたか? 栗原 いや、全然思っていなかったです(笑)。特番時代なんて、次の放送は決まっていても、その次は不透明という状況が続いていましたから。ただ、毎回の反響の大きさを受けて、「これは続けていかなきゃならない番組だ」とは思っていました。でも、「そのために何か新しいことをしなきゃいけない」というのはなくて。 放送って、番組を続けるために「もっと大きな展開を」と考えがちなんです。でも『みんなでひきこもりラジオ』に関しては、奇をてらうのではなく、「とにかく続けること」を僕の中で最上位にしています。 ――普通の番組なら聴取率を上げるためにいろいろ企画を考えると思いますが、『みんなでひきこもりラジオ』は放送回を重ねるほどシンプルな構成になっていったように感じます。送られてきたメッセージを栗原さんが読み、合間にリクエスト曲がかかる。たまに当事者のリスナーと電話もしますが、ほぼそれだけと言っていい番組です。なぜ、この形式にたどり着いたのでしょう? 栗原 それは僕なりの考えがあります。普段は報道のアナウンサーなのですが、取材の現場で必要とされるのは何よりも相手との信頼関係だと思っていて。アメリカでは「エンゲージド・ジャーナリズム」という新しい報道のあり方として注目されていますが、それは要するに、一方的に相手の話を伝えるのではなく、市民と信頼関係を作ることで、社会課題の当事者の声を反映した報道を行い、それによって世の中を変えていくという取り組みです。『みんなでひきこもりラジオ』はまさにその実践の一つではないかと思っています。 あまり大っぴらに、「これは新しい取り組みです」なんて言うつもりはないですが、当事者の声が泉のように湧き上がってくる場は、報道にとって極めて大切なものです。だから、数字を意識して内容を変えてしまっては、本来の目的からしても違う気がして。僕らの組織(NHK)の目標は、放送によって民主主義を活発にしていくことにあります。そういった目標には合致しているので、これでいいってことになっているんじゃないかって。そう勝手に思っています。 石井 私たちは社会課題をジャーナリズムとしていかに伝えていくかと日々考えていますが、そもそものところでは、まず声をあげてくれる人たちがいて、その声を伝えるからこそNHKに公共放送としての意義があるのだと思います。 もちろん、今の状況がベストだとは思っていません。まだ番組を知らない人はいっぱいいて、その人たちが参加しやすい場づくりをもっと考えていかないといけない。ただ、NHKの職員はみんな、「こういう番組はあったほうがいい」と思っているはずですよ。そうじゃなかったらNHKじゃないよねとは、みんな思うはずです。 ――ありがとうございます。次回の記事では栗原さんがMCに抜擢された理由について迫ります! ■みんなでひきこもりラジオ【放送】NHK・R1 毎月最終金曜 夜8時5分から聴き逃し:放送後1週間「らじる★らじる」 取材・文/小山田裕哉 撮影/榊 智朗