温暖化が突きつけるホッキョクグマの厳しい夏、陸で餌を探してもほぼ「徒労」だった、研究
氷のない期間が長引けば存続の危機に、カナダのハドソン湾
カナダ、マニトバ州のホッキョクグマにとって、ハドソン湾の西側を覆う海氷は、脂肪たっぷりのアザラシにありつける絶好の狩場だ。対して、十分な食料がない陸での暮らしは楽ではない。氷が解ける夏の数カ月間、ホッキョクグマは体に蓄えた脂肪で生きていかなければならないが、2月13日付けで学術誌「Nature Communications」に発表された研究によれば、現在のところ気候変動の影響で長くなる陸上生活にうまく適応できていないという。 【動画】氷の消えた陸で餌を探すやせ細ったホッキョクグマ、胸張り裂ける映像 肉食動物のホッキョクグマは陸上では休んでいると研究チームは考えていたが、実際は動き回って鳥やベリー類を探して食べている個体が少なくなかった。しかし、研究チームは、そのような行動を取ることで、ホッキョクグマは餌を食べて得たのと同じくらいのエネルギーを余分に使うことになると結論づけている。 ホッキョクグマに「必勝法はありません」と研究を率いた米地質調査所アラスカ州支部の野生生物学者アンソニー・パガーノ氏は話す。「陸上では必要な食料を見つけることができません」 十分な食料がない陸上でこれまでより長く過ごすことを余儀なくされると、弱い個体、特に若いクマが飢えることになり、最終的には、群れの存続が危ぶまれると研究チームは警告する。北極圏はほかの地域の4倍近い速さで温暖化しているという研究もある。 また、餌を求めて新たな土地に入り込むホッキョクグマが増えれば、人との危険な衝突も増えると研究チームは予想している。
陸上でも食料を求め動き回る
ホッキョクグマはカナダからグリーンランド、ロシアまで、北極圏の19地域に生息している。氷が一年中ある場所に暮らしている群れもいれば、氷が解けてなくなる場所に暮らす群れもいる。 気候変動によって、すべての地域で氷がある程度失われ、ホッキョクグマが激減している。その結果、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで危急種(vulnerable)に分類されている。 今回の研究によれば、ハドソン湾西部では1975年から2015年の間に、氷のない期間が3週間長くなった。この地域には約800頭のホッキョクグマが暮らしているが、1980年から30%も減少している。現在、これらのクマが陸上で過ごす日数は年間平均130日で、10年ごとに5~10日増えると予想されている。 ハドソン湾のホッキョクグマが陸上でどのように過ごしているかを探るため、パガーノ氏らは2019~2022年の夏、20頭のクマにGPSビデオトラッカーを3週間ずつ装着した。そして、食事、移動、行動、体格の変化、毎日のエネルギー消費を追跡した。 「ホッキョクグマが陸上で何をしているかについては(情報の)断片しかありませんでした」。パガーノ氏は数年前、ホッキョクグマが海氷の上でどのように活動しているかに焦点を当てた研究を主導している。 クマたちの行動は千差万別だった。3頭は海で長く泳ぎ、その距離が100マイル(約160キロ)を超えるメスもいた。動画で確認してみると、このメスは泳いでいるときにシロイルカの死骸を見つけたが、食べることができなかった。「ホッキョクグマは海上では食事をとれないことを示しています」とパガーノ氏は話す。 パガーノ氏らにとって、これらは意外な発見だった。ホッキョクグマはエネルギーを節約するため、氷が解けている間の活動を最小限に抑えると予想していたためだ。 おとなのオスはほぼすべての時間を休息に使い、陸上でのエネルギー消費は冬眠中のクマと同等のレベルまで減少したが、20頭のうち70%はベリー類、草、鳥、トナカイの死骸など、食料を求めて活発に動き回っていた。これらの食料はアザラシの脂肪よりはるかにエネルギーが少ない。 年齢、性別、体格に関係なく、19頭は体重が減少した。 ホッキョクグマが陸に上がって180日が経過すると、おとなのオスの約25%は飢えの問題に直面し始めると研究チームは予測している。おとなのオスは体重750キロを超えることもあり、最も回復力がある。しかし、子グマをはじめとする弱い個体は、もっと早い段階で飢えに直面するだろう。