『SKYキャッスル』の重要ワード“SKY”とは? 韓国ドラマが問い直す“超学歴社会”の弊害
テチ洞のスター「イルタ講師」
イェソら子供たちが通う学習塾街も、『SKYキャッスル』のもう一つの舞台だ。字幕では出てこないが、劇中の登場人物ははっきり“テチ洞”と言っている。テチ洞とは韓国の江南区に実在する地域で、国語、数学、科学など、細かい教科に分かれた塾が路地まで乱立している(※3)。入試のための塾の95%がここにあるとされているテチ洞の主役が「一流スター講師」、通称“イルタ講師”と呼ばれる優秀な教師たちだ。 ドラマ『イルタ・スキャンダル ~恋は特訓コースで~』では、変わり者なくらい仕事一筋で、優秀さと教育への熱意だけで生きているイルタ講師、チヨル(チョン・ギョンホ)が登場する。彼は自称「1兆ウォンの男」だが、たとえば累積受講生850万人を誇る数学のチョン・スンジェ講師は、あるバラエティ番組で年収を「メジャーリーグ選手に似ている」と明かした(※4)。裕福な家庭の子供は有名塾やイルタ講師に高い授業料を払って私教育を受ける反面、貧しい家庭の子供は高価な塾代を賄うことができず、私教育を受けられないため、自然と裕福な家庭の子供と貧しい家庭の子供の間で学力の二極化が深刻化している。 その一方、“イルタ講師”という人気稼業も、塾の雇われの身でしかない。契約や移籍によるもめ事は日常的に起きていて、競合企業への移籍で争いになり損害賠償請求にまで至ったケースもある。かつて生徒との間に起きた事件をきっかけに摂食障害に苦しむチヨルのように、受講生や保護者からのプレッシャー、同僚からの嫉妬によるストレスからも逃れられない。実際、ある講師は「“イルタ講師”になって、なぜ人気スターが自殺をしてしまうか分かった」とこぼしている。彼らもまた受験生と同じく激しい競争を勝ち抜いていかなければならないのだ。これも学歴偏重社会の悲劇と言える。
『SKYキャッスル』の「入試コーディネーター」は実在する?
『SKYキャッスル』のストーリーを盛り上げるキャラクターの中でも、ひときわ異彩を放つのが、入試コーディネーターのキム・ジュヨン(キム・ソヒョン)だ。VIPだけがひそかにコンタクトを取れるコーディネーターの中でも、ソウル大入学査定管出身の彼女は、請け負う生徒は年に2人までとハードルが高い。その代わり、どんな手段を使ってでも100%合格させる凄腕だ。ところで、ジュヨンのような入試コーディネートは実在するのだろうか。 2004年頃に伝説の“イルタ講師”として名を馳せ、現在は入試願書代行企業「ユーウェイ」の所長であるイ・マンギは、「ドラマで描かれる私教育の様子は、70%現実」(※5)と製作陣のリサーチ力に舌を巻く。入試コーディネーターも、大っぴらではないが“コンサルタント”という呼び名で実在するそうだ。 ソジンはジュヨンへの依頼金を工面しようと、不仲の義母に頭を下げる。その金額は、比喩として「アパート一軒分」とされるが、法的に定められた入試コンサルティング費用は1分当たり5000ウォン(日本円で約574円)程度。一方、不当に高額なコンサルタント料の入試コーディネーターは、その10倍で受け持つこともあるそうだ。入試コーディネーターが存在感を持つようになった背景は、やはりポートフォリオなど複雑すぎる入試制度だ。受験生の中で優位になるスペックは、求めればきりがない。 私教育は、誰よりも優位に立ちたいという受験生とその親たちの、際限ない欲望と不安を満たしてくれるのだとイ所長は指摘している。