彩色で再現した甲羅の工芸、正倉院展出展の「緑地彩絵箱」…「当時の人々の技術の高さを知って」
26日に開幕した「第76回正倉院展」に出展されている木製の献物箱「緑地彩絵箱(みどりじさいえのはこ)」は、甲羅や金属を使った工芸技法を彩色で巧みに似せている。希少な素材や手間のかかる装飾の疑似表現で、費用や時間の制約がある中、最良の品を作ろうとした奈良時代の工人の工夫がうかがえる。(藤本幸大) 亀の甲羅を貼った「玳瑁八角杖」(奈良市の奈良国立博物館で)
色鮮やかな花模様が描かれた「緑地彩絵箱」の縁には、派手なまだら模様が施されている。玳瑁(たいまい)貼りというウミガメの甲羅を使った工芸技法を彩色で再現したものだ。木地に金箔(きんぱく)を貼り、その上に紅色と墨を塗り重ねて斑文(はんもん)を描いている。当時、甲羅は中国南部などからもたらされ、手に入りにくく貴重だった。
正倉院展では、本物のウミガメの甲羅を使った杖(つえ)「玳瑁八角杖(たいまいはっかくのつえ)」も展示されている。比較して見ると、「緑地彩絵箱」では、まだら模様の端が赤みがかった甲羅の特徴をうまく捉えていることがわかる。
「緑地彩絵箱」の脚の部分にも他の素材に似せる技が用いられている。金箔を貼った上に墨で唐草文様を描き、透かし彫りした金具のように見せる技法だ。所々に紅色をつけ、金箔の色に変化をもたせることで立体感を出そうとしたらしい。
奈良国立博物館の三本周作主任研究員は「仏様にささげる箱にふさわしい、ぜいたくな装飾を再現しようとしたのだろう。何らかの事情で短期間のうちに制作する必要があり、こうした技法を使ったのではないか」と推測する。
彩色によって別の素材に似せる技は、過去に出展された宝物にも見られる。献物箱の「蘇芳地金銀絵箱(すおうじきんぎんえのはこ) 」は、赤い植物染料の蘇芳を木の箱全体に塗り、高価な外来材だった紫檀(したん)に似せている。まだら模様がついた希少な竹「斑竹(はんちく)」に似せるため、竹に模様を描く「仮斑竹(げはんちく)」という技法もある。
三本主任研究員は「擬似表現が盛んなのは奈良時代に特徴的なことだと思う。当時の人々の創意工夫や技術の高さを知ってほしい」と話している。