なぜ「通学定期券」はこんなに安いのか? 明治から続く教育政策、国の教育予算でカバーすべき?
通学定期券の費用負担の現状
鉄道会社が国の主導で始めた通学定期券は、今でも鉄道やバスの事業者が割引分を負担している。通学定期を提供することで学生の利用を促し、将来的な顧客を獲得しようとしているため、行われている。 ただ、通勤や通学で公共交通を利用する人が多いなかで、定期券を使わず普通運賃で乗る人たちが、その割引分を間接的に負担している形になっている。 実際、JRの運賃は私鉄に比べてかなり高い。定期券の割引率が高い反面、こうした問題が生じているともいえるだろう。これは見過ごせない課題だ。前出の宇都宮教授は、 「通学定期の割引販売は教育政策の一環として始まっている以上、文部科学省の教育予算でカバーすべき」 と主張している。欧州などでは学割の費用は「すべて教育のための公費」から出ているもので、宇都宮氏の知る限りでは 「通学定期の割引コストを民間の事業者に押し付けている国は(日本以外)ない」 という。
神戸市が独自施策開始
神戸市は、公費で通学定期券代を負担する自治体のひとつである。 2024年9月から、神戸市に住む高校生などが市内の高校に通う際の通学定期券代を「全額補助(無料化)」することになった。 また、2024年4月から8月までの期間には、通学定期券代のうち6万円(月平均1万2000円×補助対象期間の月数)を超える額の半分を補助している。 神戸市外の高校に通う場合は、通学定期券代のうち年額14万4000円(月平均1万2000円×補助対象期間の月数)を超える額の半分を補助している(神戸市ウェブサイト。2024年11月15日更新)。 いずれの場合も、定期券を購入し、その写真などを証拠として電子申請をすると、指定の口座に補助金が支払われる仕組みだ。 この制度は神戸市独自のもので、通学定期券代の無料化は 「全国初」 の試みとなる。背景には、大阪府で高校の授業料が所得制限なしで完全無償化されたことがある。 神戸市では世帯年収910万円以上の場合、高校の授業料は全額自己負担となるため、子育て世帯が大阪に流出し、地域の進学希望者が減少することを懸念し、今回の施策に踏み切ったという(『神戸市公式note』2024年5月23日付け)。