「名ばかりフリーランス」対策が不十分 今秋施行の新法に日本労働弁護団が意見書
会社に所属せずに個人で働くフリーランスを守る新法が、今秋にも施行される。発注者による一方的な報酬減額など、不公正な取引をなくす内容だが、なお不十分とする声は少なくない。新法の政省令や指針の取りまとめが進む中、日本労働弁護団は意見書を公表し、望ましい保護の在り方を提言している。 雇用労働者とフリーランスの違い 新法は事業者がフリーランスに業務を委託する際、報酬や支払期日、仕事の範囲などを書面やメールで示すよう義務付けた。一方的な報酬減額や成果物の返品も禁じている。妊娠や出産、育児、介護への配慮のほか、ハラスメントの相談体制の整備も義務化。現在、厚生労働省と公正取引委員会で政省令や指針の内容が検討されている。 意見書はまず、「名ばかりフリーランス」の対策が不十分と指摘した。フリーランスが雇用労働者と同じ働き方をしていても、業務委託契約のため労働関連法の保護から外されてしまう問題だ。技術革新で働き方や契約形態が多様になる中、労働者に当たるかどうかを判断する国の基準は1985年当時のまま見直されておらず、検討が必要とした。 妊娠や出産、育児、介護に配慮する対象は、政令により「継続的な業務委託の期間が6カ月以上あること」とする方向で議論されているが、この期間を短くして対象を広げるよう求めた。また、「小学校入学前までの子どもを養育すること」で検討されている育児の配慮も、小学校6年生まで拡充することを主張している。 ハラスメント対策は、業務時間外や就業場所以外の行為も防止措置を取るよう、発注者に義務付ける形を提言。また、事業者が報酬額や支払期日をフリーランスに示す際、氏名や住所を明らかにすることも求めた。フリーランスに被害が出た場合、発注者の氏名や住所が分からないと司法手続きに影響するため、としている。
【平井康太弁護士に聞く】契約の「空白期間」に課題
日本労働弁護団の意見書の作成を担当した平井康太弁護士(第二東京弁護士会)に、新法施行に向けた課題と対策を聞いた。 -「名ばかりフリーランス」の問題点と、望ましい対策をどう考えるか。 「本来は労働者である人に、労働基準法などの労働関係法規に沿った扱いをしないことは、人権侵害に当たると考えている。対策として、労働者に当たるかどうかを巡る訴訟になった場合、発注者が否定の立証をできない限り、労働者として扱う『推定規定』を法に盛り込むことが重要。推定規定は米国のカリフォルニア州で施行され、欧州連合(EU)でもこの考え方を含む指令案が合意された」 「労基法上の労働者に当たるかどうかの判断基準は、国の1985年の研究会報告が今も参照される。だが、労働者であっても場所にとらわれないテレワークの普及や、始業・終業時刻が決まっていない裁量労働制の導入で働き方は多様化している。現状に合っておらず、判断基準は見直すべきだ」 -出産や育児、介護への配慮も拡充を求めている。 「配慮の対象を、継続的に業務委託されている期間が6カ月以上あること-と制限するのはおかしい。新法の趣旨はフリーランスの就業環境の整備であり、配慮が必要なのは業務委託が6カ月未満でも変わらない。育児の範囲を『小学校入学前までの子どもを養育していること』に限るのも、子どもは小学6年生くらいになるまで1人にするのは難しい面があり、見直しが必要。フリーランスが配慮を求めた際、不利益な取り扱いをすれば違法行為とすることも明記すべきだ」 -ハラスメント対策で求められることは。 「パワハラやセクハラ、マタハラなどについて現在、国が指針案をまとめている。だが指針案ではセクハラの対象を、仕事に見過ごせないほどの影響が出るもの、と狭く捉えすぎている。体にたびたび触れることを典型例に挙げている点も、回数が少なければいいと誤解を与えかねず不適切。パワハラやマタハラも同様の傾向があり、再検討の必要がある」 -発注者とフリーランス間の業務委託で、一つの契約が終わった後、次に結ぶ契約との間の「空白期間」も問題視している。 「例えば出産や育児、介護への配慮で指針案は、空白期間が1カ月未満の場合を対象としている。これでは一つの契約が終わって1カ月以上空くと、法が適用されず配慮を受けられない。空白期間の定めが壁になり、適切とは言えない」 -発注者が報酬額や支払期日などをフリーランスに示す際、氏名や住所を明らかにしないと司法手続きに影響すると指摘した。 「仮に報酬の不払いが起きたとして、フリーランスが訴訟で勝訴しても、相手の住所が分からないと強制執行ができず回収できない。これでは判決が絵に描いた餅になる。フリーランスが交流サイト(SNS)で仕事の依頼を受ける場合などは、発注者の住所が分かりにくい。こうした相談は実際にある」