かつて「藤井聡太を泣かせた」永世名人が振り返る、今も変わらない「勝負の厳しさ」と変化した「対局への向き合い方」
人生100年時代。平均寿命が上がり続けている現代の日本では、そう遠くない未来に100歳まで生きることも当たり前になっているだろう。そんな時代にいつまで現役を続けられるのか?どんな老後の過ごし方が幸せなのか?医療はどこまで発展しているのか? 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 ノーベル賞学者と永世名人。1962年生まれの同い年の二人が、60代からの生き方や「死」について縦横に語り合った『還暦から始まる』(山中伸弥・谷川浩司著)より抜粋して、還暦以降の人生の楽しさや儚さについてお届けする。 『還暦から始まる』連載第17回 『「藤井聡太の表情が突然変わった」...竜王戦立会人の永世名人が目撃した、藤井聡太の「誰も知らない本質」』より続く
人間固有の「悔しさ」
山中確か藤井さんが子どものときに、谷川さんの指導将棋で負けそうになって大泣きしたというエピソードがありましたね。 谷川ええ。彼が小学2年生で、名古屋の将棋イベントで多面指しの指導将棋をしたときのことですね。こちらは飛車と角を落とすハンデをつけて、私が勝ちそうだったんですけれども、「引き分けにしようか」と話した瞬間、将棋盤に覆いかぶさって火がついたように泣き始めました。 彼は当時、アマチュア3段で、2枚落ちで勝てるという自信があったのではないでしょうか。それだけに、不本意な内容だったことがよほど悔しかったんだと思います。あるいは、もう少し対局を続けたかったのかもしれません。 山中でもその悔しさ、反発心はAIにはなくて、人間固有のものでしょう。おそらく若さを保つためにも、そういう気持ちは持ち続けていなければいけないんじゃないでしょうか。 谷川そうですね。私の年代になると、負けたときの悔しさを失った時点で「そろそろ引退が近い」と思ったほうがいいのかもしれません。というのも、長く現役を続けるには、現役棋士としての精神状態を保たなければなりません。そのためには、そこそこ勝っていないと難しいと思います。