「築50年」老朽化マンションの売却益がまさかの“6000万円”! 10年かけて住民の合意にこぎつけた「再生プラン」とは?
前編【「築50年」マンション建て替え「10年奮闘記」 住民が愛着あるマンションの将来を直視せざるを得なくなった“非常事態”とは?】からのつづき 港区麻布エリアの一等地マンションに住む50代の会社員Yさん。愛着のある築50年のマンションは、共用部や内装など見えるところは綺麗に保たれているが、配水管の老朽化や耐震強度の不足が顕在化。建て替えは諦め、デベロッパーへの敷地売却案が有力となったが、実現までは多くの障壁があったという。 (前後編の後編/前編の続き) ***
実際の選択肢は少ない
マンションの再生方法について、建設会社が提示したプランは以下の3つだった。 A案:耐震補強を含む大規模な改修・修繕工事 B案:建て替え C案:敷地売却 ただ、A案は耐震補強工事に2~3億円の費用がかかることが分かり断念。 B案の場合では、同じ敷地でより階数の高いマンションに建て替えることができれば、新たに販売できる部屋数が生まれ、その利益分を建て替え費用に充てることができる。ただ、建材費の高騰も相まって、建て替え後のマンションに住み続けるためには多額の購入費用の発生は不可避。全戸の住人が多額の購入費用を捻出する、という前提条件はあまりにハードルが高すぎた。 残ったC案の敷地売却であれば、希望者で購入費用を捻出できる世帯は、同じ敷地に建つ新しいマンションに住むこともできるし、売却益をもとに別のマンションに転居するという選択肢も生まれる。 結果的に、それぞれの世帯の事情に合わせて選択肢を持たせられるC案が、住民の合意をまとめる上で、最も現実的なプランだと判断された。ただ、それでも住民全体の合意形成に至るまでは一朝一夕ではいかない長い道のりが存在した。 前編に引き続き、実際に港区の当該マンションに住み、管理組合のメンバーとして、敷地売却と建て替えに関わってきたY氏に詳しく事情を聞いた。
建て替えには一戸あたり約6000万円の負担金が必要に
「3つの再生案を吟味し、C案の敷地売却がもっとも現実的だろう、という話で方向性が決まったわけですが、3つの案を1つに絞るまでも大変でした。耐震診断や配管の劣化度調査を実施するのも、費用がかかりますよね。その予算を取るためにも決議が必要なんです」(Y氏) マンション再生案の検討を進めるため、調査に必要な予算を確保するために、まず「マンション建替検討推進決議」を採択することになる。この決議は住人の過半数の賛成で成立する。 「この決議を採択したのが2020年です。組合のメンバーで建設会社を招いての勉強会を始めてから、2年ほどが経過していました。この時、合わせて“住まい調査アンケート”という質問票を配布したのですが、その時点で建て替えや敷地売却など、“マンションの将来を真剣に考える必要がある”と回答したのは、まだマンション内の半数ほどでした」(Y氏) B案の建て替えについて、実際にデベロッパーに見積もりを依頼したところ、多額の負担金が必要だと判明したのもこの時期だった。 「建て替え時にマンションの階数を2つほど積み増せることが分かっていたので、デベロッパーの販売利益を鑑みれば、負担金は2000~3000万円ぐらいだろうと予想していたのですが、甘かったですね。実際は一戸あたり6000万円前後かかるというのが、デベ側の試算でした」(Y氏) 建て替え費用の捻出には、全戸が負担金の支払いをする必要があるが、区分所有者の全員が高額な負担金を支払う「建て替え案」に賛成するのは非現実的だった。マンションの約半数はオーナーが賃貸物件として貸し出しており、賃借人の一次退去などの交渉も難航が予想された。