【処理水放出1年 浮かび上がる課題】漁業 「風評ない」楽観できず 漁場の拡大に影響か
東京電力福島第1原発で放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出が開始されてから24日で1年となる。海産物の価格や観光、周辺環境などに大きな影響はないとされる一方、相次ぐ東電の廃炉作業でのトラブル、汚染水抑止対策など問題は山積している。課題と展望を探る。 いわき市の久之浜漁港に漁師たちの威勢のいいかけ声が響いた。新鮮なヒラメやメヒカリなど本県沖の魚介類「常磐もの」が次々と水揚げされた。福島第1原発の処理水の海洋放出開始から間もなく1年。「懸念していた風評はほとんどなかった」。50年以上、底引き網漁業に従事している鈴木三則さん(73)は胸をなで下ろした。 県によると、常磐ものの代表格・ヒラメの市場での平均単価は、放出が始まった昨年8月からの1年間で1キロ当たり1034円となった。前年同期比で78円上回り、大幅に下落した時期もなかった。県や国が「風評影響はほぼない」とする根拠となっている。
しかし漁業関係者は「本県を応援しようという機運が一時的に高まったためだ」とみて楽観はしていない。 ◇ ◇ 国の要請もあり、処理水放出後に常磐ものの引き合いが増えた。海洋放出は約30年にわたり続く。4月には福島第1原発構内で作業員が誤って電源ケーブルを損傷させ停電が発生し、処理水の放出が一時停止するトラブルが発生した。今後も問題が続けば、風評の火種になりかねない。県漁連は風評のあおりを受けても揺るがないブランド力のさらなる強化を急ぐ。 課題は震災後に低迷している漁獲量の引き上げとなる。2023(令和5)年の県内の沿岸漁業水揚げ量は6530トンで、震災以降で過去最多だった。ただ、震災前の2010(平成22)年の25%にとどまっている。 漁獲量を増やす上で欠かせないのは、隣県沖の漁場を行き来する入会(いりあい)漁業の再開だ。原発事故発生後、福島県漁連が宮城、茨城両県側に自粛を申し入れた。2021年ごろに再開に向けた協議を始め、宮城県沖では昨年9月から底引き網漁船の操業が復活した。