異業種に参入する企業も インバウンドが増えているのになぜ大変?日本の外食業界が直面している3つの逆風
同社はコロナ禍でも食品事業が経営基盤をしっかりと支えていたため、飲食店のテクノロジー化など、積極的な投資を続けることができた。こうした動きは今後、さらに加速していくのは間違いない。特に外食産業とは別の収益構造のビジネスに挑戦をし、事業のポートフォリオを豊かにしながら、経営の安定化を目指す流れになるのではないか。 今後、どんなにインバウンドが活況を呈しても、残念ながら「29兆円の壁」を超えるのは難しいだろう。その理由の1つが、外食機会の減少だ。コロナ禍以降、特に居酒屋をはじめとしたアルコール業態では2回転目、3回転目の需要が激減している。
一方で増えているのが予約での来店だ。予約管理システム「ebica」を運営するエビソルによると、2023年は年間を通して総予約数がコロナ禍以前を上回った。特にウェブ予約の伸びが顕著で、予約をしてから来店する流れが一般的になっていることが読み取れる。つまり、突発的に飲みにいくことが決まるのではなく、あらかじめ日程を決めたうえで、行きたい店を決めて飲みにいく人が増えているのだ。 そこで選ばれるのは、行く価値のある店にほかならない。そもそもサービスレベルが高かったり、SNSで話題だったり、食べるべき料理があったりと、何かしらの価値がある店ではないと予約をしてまで行こうとは思ってもらえない。その結果、顧客体験価値が大切になり、高付加価値化の流れが加速していく。
その価値をつくるものは何かといえば、結局、人でしかない。人手が足りなくなればなるほど、人による仕事の価値は上がり、競争力の源泉になるだろう。 ■「働く価値のある企業」になれるかどうか 現在、人手不足の中でも、人材の採用に成功し、勝ち残っている外食企業も存在する。それは働く価値のある何かを持っている企業だ。地域で必要とされている店や、そこでしか学べないノウハウなど、何かしらの働く意味や意義のある企業になる。つまり、働く価値がある企業に人が集まり、その人が行く価値のある店をつくるともいえるだろう。
そこでつくり出される価値は、汎用性の高い武器になる可能性が高い。大阪王将の例でいうと、創業以来、店で提供している餃子を磨き続けてきたことが圧倒的な価値を生み、冷凍食品としても大きな支持を集めるまでになっている。公園再生事業やホテルのマネジメントを行う企業も、飲食店を運営する中で磨き上げてきたノウハウを武器にして、他業界への参入を果たしている。 つまるところ、競争の激しい外食業界を生き抜く強みは、他の業界で通用する武器になるということだ。そうした側面からも、外食という枠を飛び出して、存在感を発揮する企業は増えていくだろう。
三輪 大輔 :フードジャーナリスト