ふん尿被害やごみ荒らし…野良猫巡るトラブル増に町は「TNR活動」強化 およそ2年で814匹処置するも、減らない苦情、尽きぬ悩み
野良猫への無責任な餌やりや多頭飼育に伴い、鹿児島県さつま町内でふん尿被害などのトラブルが相次いでいる。本年度の猫を巡る町への相談は6月末で30件に上り、すでに前年度の36件に迫る。町は野良猫を捕獲し、不妊去勢手術をして地域に返す「TNR活動」や適正飼育周知に力を入れるが、効果はいまひとつ。関係者の奮闘が続く。 【写真】譲渡会場で適正飼育について説明する動物愛護団体「くるみの森」のメンバー=さつま町平川
「かわいそうでついつい餌をあげたらすみ着いてしまい、あっという間に数が増え途方に暮れた」 7月上旬、「はちどりTNR病院(さつま町分院)」を訪れた70代女性は振り返る。牛舎に居着いた5匹を持ち込み、無事に不妊去勢手術が終わると安心した様子で家路に就いた。 同分院は「TNR活動」専門で、動物病院のない町内で月1回開設する。公益財団法人「どうぶつ基金」が手術費を全額負担する行政枠の野良猫が主な対象。町は2022年2月から基金の事業を活用し、24年3月時点で計814匹が手術を受けた。 ◆ 町は猫を巡るトラブルが目立ち始めた22年の6月に「猫の適正飼養ガイドライン」を制定。習性や寿命を紹介した上で、飼う場合のルールや野良猫などの接し方を案内し、TNR活動は野良猫を減らす「有効な手段」と解説する。 環境省によると、雌猫1匹から1年で20匹、2年で80匹以上に増える。未手術の野良猫や外飼い猫が多いと、繁殖してトラブルも多発。町では近年、「近所の猫が自宅庭にふん尿をして困る」「ごみを荒らす」といった苦情の相談が多数寄せられている。
町は有志や町内の動物愛護団体「くるみの森」とTNR活動を進めつつ、適正飼育についてホームページなどで発信。7月には急きょ、啓発チラシも作成して全戸配布した。だが住宅地や中山間地問わず苦情は依然多く、「目に見えた効果が表れているとは言い難い」(担当者)のが現状だ。 ◆ 三島村竹島では、猫を巡るトラブルが多発していた15年、住民総出で島内の野良猫や飼い猫をほぼ捕獲して手術した。以降はほとんど問題は起きず、TNR活動が実を結んでいる。 同分院で手術に当たる獣医師の浜崎菜央さん(47)=鹿児島市=は「TNR活動は一挙に進めないと成果が表れにくい」と指摘。捕獲や住民への周知など「行政や愛護団体、地域の連携が欠かせない」と訴える。 TNR活動に加え、譲渡会も定期的に開く「くるみの森」によると、トラブルは1人暮らしの高齢者や地域で孤立した世帯に多い。淀水聖子代表(59)は「(ふん尿や鳴き声など)環境配慮だけでなく、地域づくりや高齢者福祉の視点からの協力も必要。手術が必要な猫は多く、地道に続けなければ」と話した。
◇TNR活動とは 猫を捕獲する(TRAP)、不妊去勢手術を施す(NEUTER)、地域へ戻す(RETURN)の頭文字を取る。手術後の猫には目印として、耳にV字形の切れ込みを入れる(さくらねこ)。手術効果として繁殖の抑制に加え、雄の場合は発情時の鳴き声や尿スプレーによるマーキング行動が抑えられるとされる。
南日本新聞 | 鹿児島