徐々に進むロボット審判 導入へのメリット、デメリットとは?/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く
【山崎夏生のルール教室】 【問】2018年以降、プロ野球ではほぼ全プレーがリクエスト制度の対象となり、その結果、判定トラブルが激減したように思います。昨年は危険球以外の退場者はおらず、近年では監督が血相を変えてベンチを飛び出すシーンなどまったく見られなくなりました。それだけ「機械の目」が信頼されているのです。ならば球審のストライク・ボールの判定にも取り入れるべきではないでしょうか? 実際にアメリカのマイナー・リーグや韓国プロ野球では「自動投球判定システム」(ABS:Automatic Ball-Strike System)がすでに採用されていますよね? 【答】最新技術を結集させたカメラを定点に設置し、本塁上にある五角柱のストライクゾーンを認知させるシステムはすでに実用化のレベルにあります。機械の目ですから一貫性もあります。MLBでもNPBでもいずれは採用される日が来るでしょう。それもまた時代の流れです。 とは言え、現時点ではまだ課題がたくさんあります。まず一貫性はあれども融通性がない、ということ。例えば外角低めいっぱいに投げ込まれ打者が手も足も出なかったような170キロのストレートでも1センチ外れていればボールとなり、すっぽ抜けたワンバウンドのカーブでも本塁最先端部をかすればストライクとなります。要は投球の質を見極めないのです。 また本塁の幅は432ミリで世界共通なれど、高低のゾーンはすべての打者で違います。打ち気がなく突っ立っているときもあれば、バントの構えをするときも。そして各自のゾーンの初期設定をするのは人の目と感覚なのです。そんな人と機械の目の微調整も必要です。当然ですが、納得のいくシステムにするためには膨大なデータの入力や経費がかかるでしょう。果たしてそれだけの手間暇をかけるだけの実効性があるのか、現時点でははなはだ疑問です。 よってこのABSは球審の判定をアシストする立場にとどめてもらいたいと願います。全投球に対してではなく、例えば明らかに疑問符の付くような判定に対してのみ打者あるいはバッテリーが確認を求める。その回数制限も、です。 NPB審判の判定技術はファンからはともかく、現場では高く評価されています。数センチの差を見極めるためにキャンプでは毎日ブルペンでボールを見続け、開幕までに1万球を目標に練習に励んでいます。若手審判によく言ったのはプロの合格点は99点、1試合300球に対しミスは3球までだよ、と。もちろん100点を目指しますが、この欠ける1点だけを埋めるABSとなりますように。投球判定をするからこそ「球審」なのです。
週刊ベースボール