[MOM4885]新潟明訓FW田代蓮翔(1年)_対戦相手の下部組織で育った1年生ストライカーが後半ATの劇的決勝弾で王者撃破の立役者に!
[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ] [11.2 選手権新潟県予選準決勝 帝京長岡高 0-1 新潟明訓高 長岡ニュータウンサッカー場] 【写真】影山優佳さんが撮影した内田篤人氏が「神々しい」「全員惚れてまう」と絶賛の嵐 もうほとんど時間がないことはわかっていた。ボールが目の前に転がってくる。無心で振り抜いた左足に確かな感触を覚えた瞬間、ゴールネットは揺れ、気付けば大声で叫び、全速力で走り出していた。 「あそこは直感でした。シュートがたまたま自分の方に流れてきて、それを左足で触った感じでした。『ゴールを決める!』という気持ちで試合に入っていたので、決められて良かったです!」 新潟明訓高が誇る期待の1年生アタッカー。FW田代蓮翔(1年=長岡ジュニアユースFC出身)が因縁の相手を向こうに回し、土壇場で叩き出したこの試合唯一のゴールが、チームをファイナルへと力強く導いた。 特別な相手との、特別な試合。気合は十分すぎるほどに入っていた。高校選手権新潟県予選準決勝。新潟明訓が対峙するのは、夏のインターハイで全国4強まで駆け上がり、今シーズンから昇格したプレミアリーグでも存在感を示している帝京長岡高。県内最強の称号をほしいままにしている難敵だが、この1年生にとってはそれ以上の意味を持つ対戦相手だ。 田代の前所属チームは帝京長岡の下部組織に当たる『長岡ジュニアユースFC(長岡JYFC)』。相手のベンチには当時から指導を受けていたスタッフも座っており、ピッチにもベンチにも、それこそ応援スタンドにも、旧知の先輩や同級生たちが顔をそろえていた。 「今日の試合は特別でした。自分が小さい時から帝京長岡は強かったですし、『そこを倒したい』という想いで明訓に入ったので」。帝京長岡ではなく、新潟明訓を選んだ自分の決断が間違っていなかったことを証明したい。ベンチからのスタートとなった田代は、アップエリアで来るべき時に向けて気持ちを高めていく。 トップチームのメンバーに入り出したのは夏前ぐらいから。「そこから夏休みの遠征で頑張って食らい付いていって、プリンスにも出られるようになりました」。なかなか公式戦でのゴールは生まれなかったものの、今大会の初戦となった三条高戦ではハットトリックを達成。頼れる先輩たちに囲まれている中で、少しずつ存在感を打ち出してきた。 試合は守備陣の奮闘もあり、終盤まで0-0の緊迫した展開が続く。坂本和也監督の決断は後半40分。「延長も覚悟していたので、延長に入ってから出すか迷ったんですよ。あの子は帝京長岡の下部組織出身の子なんですけど、ワンタッチで決める能力が高くて、迷ったんですけど、『オレ自身が引いちゃだめだ』と思って、攻めの姿勢で行きました」。アップを続けていた田代に声が掛かる。 「監督からは『どんどん足を振って、ゴールを決めてこい』と言われました」。もちろん自分もそのつもりだ。短い時間でも、きっとオレなら結果を出せる。雨の降り続く濡れたピッチに、19番を背負った小柄な1年生が駆け出していく。 ボールの流れは冷静に見えていた。右サイドをMF桑原壮汰(3年)が力強く切り裂くと、GKが触ったボールはファーサイドに流れ、長岡JYFC時代の先輩でもあるMF椿泰一郎(3年)が放ったシュートが、自分の目の前に転がってくる。無心で振り抜いた左足に確かな感触を覚えた瞬間、ゴールネットは揺れ、気付けば大声で叫び、全速力で走り出していた。 そして、それから程なくしてタイムアップのホイッスルが新潟明訓の選手たちの耳に届く。「これまで加藤(潤)先生とキーパーの人たちも加藤(俐功)くんとか石井(伶和)くんとか(五十嵐)旺清くんとかがシュート練習に付き合ってくれていたので、その成果が出たかなと思います。3年生にこれまで支えられていたので、3年生とまだ一緒にやれると思ったら、本当に嬉しかったです」。そう話した1年生の元に、先輩たちが次々と走り寄ってくる。 「蓮翔は1年生ですけど、点を獲る能力に本当に長けていて、良いところにいるので、やってくれたなと。本当にラッキーボーイです。本当に持っていますね」と笑ったのはチームのキャプテンを任されているFW斎藤瑛太(3年)。後半ラストプレーで生まれた決勝点。1年生ストライカーが重要なビッグマッチの主役を鮮やかにさらっていった。 実はこの試合に臨むに当たり、少しだけ意識していたイメージがあったという。「最近は漫画の『ブルーロック』をよく見ていたので、『こういう土壇場で決めたいな』と思って、ちょっと『ブルーロック』をイメージしていたら、今日決められて良かったです」。そう話しながら浮かべた笑顔は、高校1年生のそれ。まだまだあどけなさの残る表情が微笑ましい。 もちろん何より大事なのが次の試合だということは、十分に理解している。試合後は帝京長岡の古沢徹監督や亀井照太コーチ、川上健コーチから激励を受けていた田代にとって、少しだけ背負うものは増えたかもしれない。決勝への意気込みを問われると、シンプルな言葉が口を衝く。 「これから1週間みんなで頑張って、決勝に勝って、優勝できるように自分も頑張りたいです」。 静かな炎を内側で燃やす、新潟明訓に現れた期待感あふれる1年生ストライカー。田代蓮翔の狡猾な動き出しと、ゴール前で発揮する得点感覚に、対峙するディフェンダーはご注意を。 (取材・文 土屋雅史)
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