恐竜化石ハンターばかりじゃない(レビュー)
古生物学者とは、何をしている人だろう。多くの人は、恐竜の化石を発掘する姿を思い浮かべるのではないか。たしかに恐竜は古生物界の花形ではあるが、古生物学者イコール恐竜化石ハンターというわけではない。「研究」とは、具体的にどんなことをしているのか。泉賢太郎『古生物学者と40億年』は、その細部の描き方がすばらしい。 化石の発掘は研究のスタートラインである。しかし、特殊な場合を除いて骨などの硬い組織しか残っていないし、骨格が完全に揃った状態で発掘できたとしても、その動物の生理学的特徴や行動学的特徴は、骨には刻まれていない。また、その時代に存在したすべての生物のうち、化石として残るものはごくごくわずかな割合だ。消えてしまった情報が大半なのである。地層の年代を特定することも、その層がどのような環境で形成されたのかを知ることも、そんなに簡単ではない。この本を読んでいると、巨大なブラックボックスに立ち向かう地味な作業こそが「やりがい」や「ときめき」の要素であることがよくわかる。 なによりも「こんなに大事なことなのにまだ何も解明されていない」ことがらに言及するときのキラキラ感に惹かれた。謎解きに挑む人生はすてきだ。たとえば、二枚貝の化石を「読む」ために、現在生きている二枚貝を観察すること。それは、脳内で時空をとびこえる体験と言ってもよいのではないか。スケールの大きな生き方だと思う。 [レビュアー]渡邊十絲子(詩人) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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