日本車離れした存在感に改めて感動! カワイイだけじゃない日産エスカルゴの名商用車っぷり
斬新でキュートなスタイルの商用パイクカー
1980年代から1990年代にかけて、日産は遊び心満載のパイクカーシリーズで一世を風靡。その第一弾が、1987年に発売されたBe-1だった。1985年の東京モーターショーで初披露されて以来、話題が話題を呼び、限定1万台の抽選販売。東京・青山にBe-1ショップがオープンするなど、大いに盛り上がった、初代マーチをベースに仕立てられたノスタルジックモダンをテーマにしたパイクカーだった。 【写真】車内もユニーク! 日産エスカルゴの車内 その後もパイクカーシリーズは攻勢を強め、1989年にはレトロアドベンチャーがテーマのPAO、そして同年、初代パルサーのプラットフォームを用いた、いまとなってはパイクカーシリーズ唯一の商用車となるS-CARGO(エスカルゴ)を同時発売させている。 今回はその後に続くフィガロ、ラシーンを横に置き、名前も姿も洒落が効いてるエスカルゴについて振り返ってみたい。 コマーシャルカーと呼んでいいフルゴネットタイプのバンであるエスカルゴは、カタツムリをイメージさせるエクステリアデザインが特徴で、全長3480×全幅1595×全高1860mm、ホイールベース2260mmの、コンパクトながら車高の高い、カタツムリのような愛らしいプロポーションを持っていた。 そしてこれまたカタツムリのように飛び出た愛嬌ある2灯ヘッドライト、フロントホイールハウスからキャビン部分までをアーチで表現した独創的なサイドデザイン、荷物の積載性にこだわった背が高く、ラッピングがしやすいカーゴ(荷室)部分のデザインなど、どこから見てもじつにシャレていたのである。 最大積載量300kgのカーゴ部分の基本は、サイド部分がラッピングに配慮した大面積の1枚パネルでウインドウはなかったものの、スタンダードルーフのほか、キャンバストップも選べ、さらにクォーターウインドウ付きのモデルも用意されていた。
限定受注生産車だったため中古車市場でもレアな存在
目立つこと請け合いのコマーシャルカーとして、多くのお店が購入したことは言うまでもなく、エスカルゴが街を楽しく、華やかなものにしてくれたことを思い出す。記憶にあるのは、都会のお花屋さんやクリーニング屋さん、弁当屋さんが使っていたことだ。 乗用定員4名のインテリア(実用上、ふたり乗りだが……)は、テーブルタイプのダッシュボードデザインを採用し、中央に大型スピードメーター(ホワイト基盤)を配したシンプルなもの。3速ATのセレクターレバーはセンターコンソール上部に配置され、その斬新さもまたパイクカーシリーズならでは。 ある意味、誰もがデザイン最優先として、さほど気にしていてないパワーユニットはE15SS型、1.5リッター直4OHC、73馬力、11.8kg-mというもので、サスペンションは前ストラット、後トレーリングアーム。タイヤは13インチだ。走ってどうの、というクルマではもちろんなかった。 そんなエスカルゴは1989年から1990年までの約2年間限定受注生産で、約1万6000台が販売されたという。現在、中古車としてはかなりの希少車となっていて、新車当時の車両価格122万円に対して、約100~200万円の値付けとなっているようだ。 振り返れば、Be-1はローバー・ミニ、エスカルゴはシトロエン2CVにインスパイアされたヨーロッパのレトロカーを思わせるデザインだけが斬新なパイクカーであったものの、そのオリジナリティは強く、それに続くパイクカーとともに、当時の話題をさらい続けた日産渾身のヒットカーシリーズであったことは間違いない。日産から、Z世代向けの令和のパイクカーシリーズなんて、出てこないかしらん。
青山尚暉