落としどころは…「ビラ」「風船」「宣伝放送」南北“応酬”がエスカレート
北朝鮮が最近、大きな風船にゴミなどをつり下げ、連日のように韓国に飛ばしていて、韓国には1000個以上が落下したとみられています。対抗措置として韓国が巨大スピーカーでの宣伝放送を持ち出すと、北朝鮮も敏感に反応し「新たな措置を取る」と威嚇。双方の応酬がエスカレートしています。 ■北の“ゴミ風船”2日間で600超 北朝鮮は8~9日の2日間で600以上の風船を飛ばしています。今のところ、中身は紙やビニールなどのゴミにすぎませんが、万が一に備え、防護服まで着用して危険性を調べます。風船のなかには、タイマー式で風船が割れるようになっていたものもあり、ソウルや南北の境界線近くの至るところに落下しました。近くに住む人たちの不安はふくらむばかりです。 地元市民 「ここに落ちるかもしれないし、私の頭上に落ちることだってある。化学物質を入れて飛ばしてくる可能性だってある」 「汚物を送るなんて話にならない。人間ですか。韓国は北朝鮮にゴミなんか送ったことないでしょう」 「関係が悪化したら、最初に規制が厳しくなるのはここ。この地域には軍人の家族が多く、軍部隊が密集しているので、経済が全部死んじゃいます」 ■韓国は“巨大拡声器”放送再開 韓国は対抗措置として軍事境界線に拡声器を設置。文在寅政権時代に停止された宣伝放送を6年ぶりに再開しました。これに対し、金与正氏が反応しました。 金与正党副部長の談話(9日) 「韓国への対応は9日中に終了する計画だったが、状況は変わった。国境で拡声器放送の挑発が始まったのだ。これは非常に危険な状況の前奏曲だ」 ■韓流ドラマを“潮の流れ”に乗せ… 韓国国内の脱北者団体がビラを飛ばし続けていたことが火に油を注ぎました。空だけではなく、海からも…。海流が北に向かうタイミングに合わせ、ペットボトルを投げこむ団体もあります。番組では、その団体を取材しました。 脱北者団体『クンセム』パク・ジョンオ代表 「江華島から送ったら、北朝鮮のクァイル郡までいく。早ければ4時間で届く。北朝鮮で飢えに苦しんでいる人に米1キロで助けられるか分からないが、それでも少しでも役に立てればという気持ちで送っている」 ペットボトルを投げ入れるのは、北朝鮮と目と鼻の先。海流に乗せることで、直線距離で100キロ以上離れたところまで届くのだといいます。コツは途中で沈まないように米を半分だけ入れること。米と一緒にいれているのはUSBメモリーです。中には何が入っているのでしょうか。 脱北者団体『クンセム』パク・ジョンオ代表 「中には『愛の不時着』や『外国人が見た南北の違い』を入れている。このUSBメモリーが彼らへの明るい光となって、北朝鮮の社会が少しでも豊かで自由になるその日まで、力の限り送り続けるつもり」 単なる体制の批判より北朝鮮の住民に響くのは、こうしたコンテンツだといいます。実際、韓国内の北朝鮮研究機関によると、最近、北朝鮮の10代の2人が韓国ドラマを周囲に勧めたとして懲役刑にされるなど、取り締まりが厳しくなっているということです。 ■金与正氏「新たな対応」を警告 こうした活動を行っているのは民間団体です。去年まで法律で禁じられていましたが、憲法裁判所が表現の自由として認めたため、現在、韓国政府が取り締まることはできません。この状況に金与正氏は警告を発します。 金与正党副部長の談話(9日) 「韓国が国境越しにピラ撒布と拡声器放送の挑発を並行していけば、疑いもなく私たちの“新たな対応”を目撃することになるだろう」 ■南北の“応酬”がエスカレート 韓国では「北朝鮮に向けたビラなどの散布」は去年まで禁止されていました。北朝鮮に対して融和政策を取っていた文在寅政権が、2020年にビラ散布などを禁じる法改正を行いました。しかし、尹錫悦政権に変わった後の去年9月、韓国の裁判所が「表現の自由を侵害する」として違憲と判断しました。 その後、目立った動きはありませんでしたが、韓国・連合ニュースは「春になると風向きが北風から南風へと変わるため、ビラ散布などが活発になるのでは」という見解を示していました。 そして先月10日、韓国の脱北者団体が反体制ビラ30万枚などを北朝鮮に向けて飛ばしました。それに対抗し、北朝鮮が先月28日に“ゴミ風船”を飛ばしました。金与正氏は“我が国の体制を批判するゴミ”と、韓国が飛ばしたビラに不快感をあらわにし、“誠意の贈り物”として拾い集めろという談話を発表しました。 今月2日になって、北朝鮮は暫定的な中断を表明しましたが「再開すれば100倍の量を散布する」と警告していました。しかし、韓国側の脱北者団体は“ビラ散布”を継続。北朝鮮が予告通り“ゴミ風船”を再開。すると今度は韓国が約6年ぶりに『宣伝放送』を実施しました。 これに対して金与正氏は、ビラの散布と宣伝放送を並行して行えば「我々の新しい対応を目撃することになる」と2回目の談話を発表しています。 ■「宣伝放送」の“緊張”過去にも 宣伝放送が緊張感を高める事態は過去にもありました。朴槿恵政権下の2015年8月、非武装地帯の韓国側で北朝鮮の地雷が爆発し、韓国軍の兵士2人が重傷を負う事故が起きました。この時に、韓国は11年ぶりに宣伝放送を再開。これを受け、北朝鮮は韓国側に向けて2度砲撃し、韓国軍も射撃で応酬。一気に緊張感が高まりました。 この時は直後に会談が行われ、北朝鮮側は前線の武装解除、韓国側は宣伝放送中止などで合意。その後、文在寅政権発足後、2018年から約6年にわたって宣伝放送は停止されていましたが、今回、それが再開されました。 ■やまぬ北の“ゴミ風船”尹政権は ソウル支局の河村聡記者に聞きます。 (Q.北朝鮮のゴミ風船に対して、ソウル市民はどう受け止めていますか) 河村聡記者 「私が今いるソウル市庁舎前の広場にも10日未明に風船が落下しました。まさにソウルのど真ん中にも落ちているということで、市民の関心は非常に高いです。とはいえ、人的被害が出ていないこともあって、不安や恐怖心が広がっている訳ではないのが実状です」 (Q.韓国側の揺さぶりは、尹政権が主導して行っているものですか) 河村聡記者 「ビラ飛ばしについては、政権が主導しているものではありませんが、黙認している状況です。尹政権としては、支持率が20%近くまで低迷するなか、就任以来ずっと貫いてきた強硬姿勢をアピールできる“見せ場”となっています。ビラ飛ばしや宣伝放送を中断させた文在寅政権との違いを国民に強くアピールできる絶好の機会となっています」 (Q.かつてあったような、南北間でのエスカレーションにつながる可能性はありますか) 河村聡記者 「強硬姿勢を取っている韓国政府ですが、一方で10日の宣伝放送は見送っています。ひたすら緊張を高めるのではなく、一定程度でコントロールしようという意図が見えます。北朝鮮側を見ても『再びゴミを飛ばす』と示唆しているものの、具体的な武力行使はにおわせていません。双方とも相手の出方をうかがって“落としどころ”を探っているという見方もできます。一方で、10日に脱北者団体に聞くと『風が吹く限り、風船を飛ばし続ける』と話していました。こういった動きも続くなかで、南北関係はにらみ合いが続くとみられます」
テレビ朝日