水中から現れるモンスターに、逃げまどう家族たち。クラシックなモンスターホラー「ホビッツベイ」は70年代の恐怖を蘇らせる
近年、70~80年代のホラー・クラシックにオマージュを捧げた新作映画が注目されている。3月20日にレンタル開始になる「ホビッツベイ」もザラついた映像の中に生理的嫌悪感をそそるクリーチャーを登場させ、往年のB級ホラーテイストにこだわりぬいた作品だ。ことにVHS時代からのホラー映画ファンにはたまらない贈り物といえるだろう。 「ホビッツベイ」予告編
30年間封印された貯水タンクに、“それ”はまだ生きていた
監督のスコット・ウォーカーはニコラス・ケイジ主演のクライム・ムービー「フローズン・グラウンド」(2013)で成功し高く評価された。そして彼が2作目の長編映画として選んだ本作の題材は、動物型モンスターの登場するオーソドックスなホラーだった。 カリフォルニアでペットショプを営むベン(マット・ウィーラン)とジュールズ(ルシアン・ブキャナン)夫婦のもとへある日、見知らぬ弁護士が訪れ、ベンの母親が遺した土地が発見されたと告げる。はるか遠いそのオレゴン州ホビッツベイの地へ赴くと、そこには絶景のビーチと30年もの間、放置されたままの廃屋があった。娘のレイアや愛犬と共に廃屋で休日を過ごした夫婦は、部屋に残された母の日記と放置された不気味な貯水タンクを発見する。空のタンクを修理して水を張ってみたベンだったが、そこから廃屋の周囲に奇怪な音や影がはびこり始める。ジュールズは母の日記から、不気味な文章を見つけ、不安な気持ちを募らせる。やがて廃屋を訪れた人間が、ひとり、またひとりと姿を消し、災厄は一家と愛犬を襲う──。
プロットはありきたりなホラーといえる。だが監督は演出に徹底的にこだわった。 まず舞台に設定されるのは1978年で、ホラー映画の恐怖を台無しにする携帯電話やスマートフォンは登場しない。乾ききって埃だらけの家の雰囲気は、多くのホラー監督がオマージュを捧げるトビー・フーパー監督「悪魔のいけにえ」(1974)を彷彿とさせる。見えないクリーチャーがじわじわ迫ってくる前半は、幽霊屋敷ホラーの定石を丁寧になぞってサスペンスを盛り上げる。じりじりと焦らされる展開は、まさに70年代ホラーだ。 そして後半、貯水タンクから現れる水棲生物型クリーチャーはマニアならずともニヤリとさせる造形で、腰まで水に浸かるタンクの中で襲われるシーンは「悪魔の沼」(1976)や「ザ・グリード」(1998)、「リバイアサン」(1989)などを彷彿とさせる。貯水タンクの奥に伸びる洞窟の恐怖は明らかにニール・マーシャル監督「ディセント」(2005)を意識したものだ。ホラーファンは鑑賞しながら「やるな」と感じるはずだ。 本作にはさらに、1940年代を回想するシーンも挿入されているが、そこでも監督は50年代のゴシック・ホラー風の陰影あるモノクロ映像を丁寧にトレースする。この映画を単なる商業作品に留めないのは、繋がれたフィルムの中に監督の映画史が封入されているからだ。