水中から現れるモンスターに、逃げまどう家族たち。クラシックなモンスターホラー「ホビッツベイ」は70年代の恐怖を蘇らせる
「ロード・オブ・ザ・リング」の視覚効果監督が“わざわざ”そうした理由
観客が最も注目するであろうクリーチャーは、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのVFXを手がけたニュージーランドの視覚効果スタジオWETAワークショップのリチャード・テイラーによるもの。驚くなかれ、それはCGではなく、人間が中に入って演じるシリコン製スーツで作られている。そのチープで生理的嫌悪感をそそる造形はまさにVHS時代のホラーの再現。CGでは作り出せない不気味な味がある。 監督のスコット・ウォーカーやリチャード・テイラーが嬉々として「わざわざクラシカルに」を演出しているのは、近年、多くのホラー監督が同じように70年代、80年代のホラー映画にオマージュを捧げ、成功しているからだろう。 例えばジェームズ・ワンの「マリグナント 狂暴な悪夢」(2021)、タイ・ウエストの「X エックス」、ダミアン・レオーネ「テリファー 終わらない惨劇」(共に2022)などは、トビー・フーパー、ブライアン・デ・パルマ、ジョン・カーペンターらの70年代、80年代作品を強烈に意識した作風だった。それは現代の監督たちが幼い頃、当時のVHSホラーに強く影響されていることを意味している。 スコット・ウォーカーもまた本作に関して「子供の頃に好きだったのは70年代、80年代、90年代初頭の映画」と語り、VHSで大量にリリースされていたB級ホラーをリスペクトしている。だからクリーチャーも必然的にシリコン製スーツで作らねばならなかったのだ。ちなみにスーツアクターはレジーナ・ヘーゲマンという小柄な女優だと監督は明かしている。モンスター・スーツを着た水中格闘シーンはとても大変だったようだ。
80年代を中心としたホラー映画へのリスペクトの背景には近年の制作環境ではレイティングやコンプライアンスがマーケティングに強く影響することへの反発があるのかもしれない。しかしウォーカー監督は過去の作品を模倣するだけでなく、よりサスペンスフルに、ウェルメイドにブラッシュアップする作業を怠っていない。観終わったあと、もう一度、懐かしのホラーの名作を観返したくなる副作用のある作品だ。 文=藤木TDC 制作=キネマ旬報社
「ホビッツベイ」
●3月20日(水)レンタルリリース ●2023年/ニュージーランド/本編約99分 ●監督・脚本・プロデューサー:スコット・ウォーカー ●クリーチャー・エフェクト:リチャード・テイラー ●出演:ルシアン・ブキャナン、マット・ウィーラン、ザラ・ナウスバウム ●発売・販売元:ツイン © 2022 ANACOTT (BEACH) LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED