【山崎豊子さん生誕100年】で異色の作品「横堀川」が上映 「国民作家」となる前夜に描かれた“船場三部作”の魅力
見逃せない2人の脇役
さらに、この映画ジャーナリスト氏は、2人の脇役に注目してほしいという。 「まず、金貸し婆さんを演じた浪花千栄子です。短い出番ながら、超ウルトラ級の強烈演技で、実にアクの強い芝居を見せてくれます。朝ドラ『おちょやん』のモデルですが、いまの若いひとが観たら、驚くのではないでしょうか。『二十四の瞳』で笑いながら少女を虐待するうどん屋女将、『夜の素顔』で服を半分しか着ていない状態の京マチ子にカネをせびる強欲母、『悪名』で勝新太郎に説教する女親分・麻生イトにならぶ、ド迫力場面です」 実は彼女は、1958年の映画『花のれん』でも金貸し婆さんを演じており、あまりのはまり役に、再起用されたものと思われる。また、山崎さんは、作家デビュー直後に浪花千栄子と対談している。それだけに浪花千栄子の“名演技”が、小説や映画にそのまま投影されたのでは、との見方もある(対談は、新潮社刊「山崎豊子 自作を語る3」に再録)。 「もう一人が、多加を支える寄席の番頭、ガマ口を演じた小沢昭一です。彼は、だらしない男をやらせるとピカイチなんですが、ここでは、寄席経営で苦労する多加を支える、誠実な番頭役を、とても気持ちよく演じています。いまや、こういう名バイプレイヤーがいなくなっているので、かえって新鮮です」 そのほか、上方落語界の大物、6代目笑福亭松鶴(1918~1986)や、桂小米時代の髪の毛フサフサ桂枝雀(1939~1999)なども元気な姿で登場し、落語ファンにとってもたまらない映画となっている。 「たしかに、映画『横堀川』は、『白い巨塔』などに比べると、小粒に感じるでしょう。しかし、“山椒は小粒でもピリリと辛い”といわれるように、いまとなっては、なかなか貴重な役者の名演技が続々登場します。さらに、旧作3本を合体させてでも、新しいものを生み出そうとした、TVマンや映画人の、山崎文学への期待が感じられます。山崎豊子さんとは、初期からすごい作家であったことが伝わってくる、そんな映画です」 神保町シアターでの上映は、10月19日(土)から25日(金)まで、1日1回の上映である。 森重良太(もりしげ・りょうた) 1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。 デイリー新潮編集部
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