熾烈な“人材争奪戦”を勝ち抜くための中小企業の戦略
■1.00倍に近づく正社員の有効求人倍率 景気が緩やかな回復基調をたどる中、企業の採用活動がますます活発になっています。有効求人倍率はパートが先行して1.00倍を超えましたが、正社員についてもじわじわと上昇し、2014年5~8月は4カ月連続で0.97倍となりました(季節調整値)。 有効求人倍率は、ハローワークを通じた求人数と求職者数を対象にした指標です。この他にも、民間の人材紹介など有効求人倍率には表れてこない採用活動があるため、実際の人材争奪戦は一層激しいものとなります。 ■「ゲーム」のルールを変える発想を持つ 採用難のあおりを強く受けているのは中小企業です。特に、大量採用を進める大企業の本社や拠点がある地域の中小企業は他よりも苦戦しているようです。また、「10月からは、大企業の中途採用が活発になる」(大手人材紹介のキャリアコンサルタント)とされており、現在の採用難が早期に改善する見込みはありません。 中小企業がこうした状況を勝ち抜くためには、ゲームのルールを変える発想で、採用活動を進める必要があります。 <他社が敬遠する求職者にチャンスあり> 通常、企業は子育てなどで時短勤務しかできない求職者の採用には前向きではありません。しかし、見方を変えると子育て期でも働く意欲のある求職者は仕事に前向きで、相応のキャリアを積んでいることが珍しくありません。 このような、他社が敬遠しがちな求職者を狙うことで、採用活動を有利に進めることができます。「欠員で業務が回らない」状況に比べれば、時短勤務でも戦力になる正社員がいたほうが良いのは明白です。子育てなどが落ち着いた後に、フルタイムに転換することもできます。 <待ちの採用ではなく、肉食系で応募者にリーチする> 成功報酬型の人材紹介は代表的な採用方法です。しかし、最近は大手人材紹介会社でも紹介件数が減ってきていて、「いいな」と思う求職者がいても、既に他社から内定をもらっていて、面接することができません。 売り手市場の採用活動では、募集をかけて紹介や申し込みを待つのではなく、求職者に直接働きかける「スカウト型」のサービスが有効です。中には、「WILD CARD」のように、他社から内定を得ている人材をスカウトできるサービスもあります。他社が内定を出した人材であれば、それなりの評価を得ていると期待できるかもしれません。 <企業と人、人と人とのつながりを利用する> 人材紹介などのサービスは、サービス提供側が持つ求職者のデータベースを使い、キャリアや年収などの条件に基づくマッチングを行うのが基本ですが、最近は、「Wantedly」のように、SNSを使い、条件以外の面で企業と求職者を結び付けるサービスも登場しています。 こうしたサービスには、企業の雰囲気を伝えてオフィスに招待する、友達が友達の就職を応援する、といった人と人とのつながりを重視する機能があります。年配の社長はこうしたサービスを敬遠しがちですが、実は、社員の距離が近いためアットホームで、新しい仕事もどんどん任されるというやりがいがある中小企業にこそ向いています。 ■顕在化しつつある採用リスクを忘れずに 採用難の折、企業は採用基準を下げると同時に、面接回数を減らすなどにより採用のスピードを上げています。これは重要なことですが、一方でミスマッチも生じやすくなります。基本的に、内定を出した時点で“条件付きの労働契約”が成立していると考えられるため、後にこれを取り消すのは簡単ではありません。試用期間後の労働契約の終了についても同様です。 人は確保しなければなりませんが、一方で採用リスクがあることも念頭に置き、最後は社長が信じた相手を採るしかありません。 (松田泰敏/株式会社日本情報マート)