「原発ドラッグ」想田和弘
7月24日、朝日新聞デジタル版が独自取材記事を掲載した。「原発の建設費を電気料金に上乗せ、経産省が新制度検討 自由化に逆行」との見出しである。 それによると、原発の新増設を進めるため、建設費を電気料金に上乗せできる制度の導入を経済産業省が検討しているそうだ。なぜなら福島第一原発事故以降、原発の安全対策費が膨らんだ。また電力の自由化が進み、電力会社が原発の新増設に及び腰になっているからだという。 ははあ。だが、電力会社が原発の新増設に消極的になって、何が困るというのか。福島原発事故の最大の教訓は、私たち人類、いや、生きとし生けるものは、決して核とは共存できないということだ。過酷事故のリスクが巨大なだけでなく、10万年以上も放射性廃棄物を管理・保管しなければならず、しかも保管方法すら決められない。 原発はドラッグと同じで、そもそも決して手を出してはいけないものだったし、絶対にやめなければならないものなのである。つまりこのまま原発が廃れていくなら、むしろ渡りに船である。 また、原発の新増設に特別な支援が必要だということは、コストが高く経済合理性もないことを意味する。かつて原発推進派は「原発は安いから」と推進の理由を挙げていたが、もはやそれすらも成り立たない。 実際、環境科学やエネルギー政策が専門の明日香寿川東北大学大学院教授によれば、すでに原発は再生可能エネルギーよりもはるかに発電コストが高い。国際エネルギー機関(IEA)のデータでは、運転中の原発は太陽光発電の約6倍、新設すると約19倍も高い。ところが日本の太陽光の発電コストは世界で2番目に高く、ドイツやイタリアの2倍以上に上る。明日香氏はその理由が日本政府の政策の欠如にあると指摘する。要は海外に比べて再エネの導入を積極的に後押しする政策が弱いので、コストが十分に下がらないというのである。 岸田政権は原発推進の理由として二酸化炭素の削減を挙げているが、それを達成したいなら再エネにこそ投資すべきであろう。少なくともその方が断然安い。 にもかかわらず、なぜ岸田政権は原発にしがみつこうとするのか。合理的な理由は見出せない。結局は一種の中毒なのだと思う。僕が原発はドラッグだと申し上げるのは、単なる比喩ではないのである。
想田和弘・『週刊金曜日』編集委員