有村昆が選ぶ、2024年マイ・ベスト邦画「俺たちは好きな映画を撮るんだ、という気迫を感じた」
日本社会に足りない「熱」を感じた
3位は『侍タイムスリッパー』。自主映画で単館上映からスタートして、全国公開となった奇跡の大ヒット作です。安田監督にお話を伺いましたが、低予算なので、撮影時は涙ぐましい努力の積み重ねだったようです。 東映の京都撮影所で撮ってるんですけど、京都の7~8月なんてクソ暑いので、普通は撮影をしないみたいなんですよ。監督はそこに目をつけて、そのスキマ時間にちょっと使わせてくれと頼み込んで、 めちゃくちゃ安い額で借りたとか…。 もちろんキャスト・スタッフはほとんどノーギャラ。監督は普段は結婚式場のVTRを作る仕事をしているので、カメラとか照明の機材はそれを流用して使ったそうです。 とにかく、この作品に関わった人たちの、映画にかける情熱がすごい。出来上がった作品も、自主映画とは思えないほど画作りが丁寧。最初はコメディなんですけど、後半から文字通りの真剣勝負になっていくという、ストーリーテリングも見事でした。 第2位は、またNetflixからですが『地面師たち』を選びました。いろいろな意味で、今年いちばん流行った作品。「もう、ええじゃないですか」という流行語も生み出しましたからね。 個人的には、第1話が特に面白かったですね。『オーシャンズ11』みたいに、仲間を集めて、それぞれに役割があって、みんなキャラが立っている。暴力や性描写を堂々と表現するというのもNetflix作品ならではだったと思います。 このような実際にあった事件を元にした映画というのは、ひと昔前はよくありましたが、最近ではコンプライアンスの関係でなかなか難しくなってるみたいです。そこを突破できるのもNetflixの強み。『地面師たち』『極悪女王』と立て続けにヒットしましたから、来年もさらに強力な作品を送り出してくれると思いますね。 栄光の第1位は『十一人の賊軍』です。東映の集団抗争時代劇を現代に蘇らせた、血湧き肉躍るアクション大作です。 その覚悟と気合いはハンパなくて、みんなドロドロになって暴れまくっていて、主演の山田孝之さん、仲野太賀さんは素晴らしかったし、あと阿部サダヲさんもヤバかった。 いまの日本映画というか、日本社会に足りない「熱」を感じましたね。 表現も踏み込んでいて、血は出るし、生首は飛ぶし、放送禁止用語が飛び交う。コンプライアンス問題とも被るんですけど、今作はそれを意図的に無視してやりきったことが称賛に値すると思います。 コンプライアンスばかり意識していると、通り一辺倒な金太郎アメみたいな映画しか生まれなくなってしまう。観客も、そんな優等生的な作品なら、わざわざ映画館まで見に行かなくてもいいかな、と思うはずです。 コンプラもマーケティングも重要ですが、石橋を叩いて渡るような、絶対に外さない映画ばっかりやっててもしょうがない。 『十一人の賊軍』は、俺たちは好きな映画を撮るんだ、という気迫を感じたし、その時代と逆行してる感じがすごく頼もしかったですね。 【6位~10位】有村昆が選ぶ、2024年邦画ベスト10「政治の問題にネットではできない映画の視点で切り込んだ」は下の関連記事からご覧ください。
ENTAME next編集部