〈物流2024年問題〉物流コストの上昇は本当に物価高騰の主要因なのか?
日銀「企業向けサービス価格指数」の動向
トラック運賃を含む物流コストのようなサービス価格の動向を示す指数として日本銀行が毎月発表している「企業向けサービス価格指数」という指数がある。下図は、日本銀行の「企業向けサービス価格指数」の前年同月比の推移を、総平均と道路貨物輸送(トラック輸送)を対象として19年4月から24年2月まで示し、更に消費者物価指数の動向と比較したグラフである。 ご覧の通り、コロナ禍以前には道路貨物輸送の企業向けサービス価格指数は、総平均も消費者物価指数をも上回る強い値上がり傾向を示していたが、コロナ禍による荷動きの減少のためか鈍化に転じ、以降漸次上昇に向かってはいるものの、総平均も消費者物価指数も大幅に下回っているのが実態である。 すなわち、現在のトラック運賃は、一般的には前年同月比で1%を若干超える程度しか値上がりしておらず、荷主企業の販売価格を二桁の割合で上げてしまうほどの影響を及ぼすようには見えないのである。
図には示されていない他の物流サービス価格の本年2月時点の対前年比を見ると、鉄道貨物輸送と内航海運輸送が共に2.9%、倉庫が1.3%と、これまたいずれも荷主企業の販売価格を二桁の割合で上げてしまうほどの影響を及ぼす値上がりは見られない。
JILS「物流コスト調査」が示す売上高物流コスト比率の動向
そのように申し上げても読者の中には、荷主の販売価格に占める物流コストの割合が大きければ、いくら物流コストの値上がり率が大きくなくとも、影響は大きいのではないかと考える方もいらっしゃるかも知れない。 そのような疑問にお答えするために、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が毎年発表している「売上高物流コスト比率」についてご紹介しておきたいと思う。 JILSでは、毎年、荷主企業を対象に「物流コスト調査」を行い、各社の詳細な物流コストを把握し、売上高物流コスト比率の推移、荷主企業の物流コストの業種別動向、日本全体のマクロ物流コストなどを報告書として公表している。下図は、その中の18年度から23年度の間の売上高物流コスト比率の推移を物流機能別に示したグラフである。 ご覧の通り、直近の6年間については売上高に占める全物流コストの割合は約5%前後、その内数であり「2024年問題」の主役である輸送費の割合は3%前後、保管費の割合は1%未満、その他については1.5%前後といったところである。 売上高に占める割合がこの程度のレベルであるコストが一桁台前半の割合で値上がりしたとしても、荷主の売値を二桁の割合で値上げしなければならないような影響は、一般的には現出しないことはご理解頂けるのではないだろうか。 しかし筆者は、冒頭で取り上げた物流コスト増の影響で二桁の割合の値上げを実施すると表明している荷主企業が嘘をついていると言っているのでは断じてない。繰り返しになり恐縮だが、筆者は物流コストが売上高に占める割合は企業により異なるものであり、場合によってはこのような企業があっても不思議ではないと考えているからである。 筆者が指摘しておきたいのは、このような話題を取り上げる際に、ここまで筆者が述べて来たような客観的データにもとづく一般的トレンドを把握せずに、特定の企業の動向に焦点を当てた報道をアウトプットすると、国民をミスリードすることになるのではないかということである。