英国の奴隷貿易を巡り「賠償で対話の時」 英連邦が歴史的声明
英国の旧植民地など56カ国で構成する英連邦(コモンウェルス)内で、過去の奴隷貿易や植民地支配に対する賠償を求める声が高まっている。10月25~26日に南太平洋の島国サモアで開かれた英連邦首脳会議では、「賠償の問題」について協議を始めるとする歴史的な共同声明が採択された。ただ、チャールズ英国王は過去について「痛ましい側面」があったと述べるにとどまり、賠償や謝罪には踏み込んでいない。 「有意義で、誠実で、敬意を持った対話をする時が来た」。英連邦加盟国は同26日の共同声明に、英国が植民地支配時代の「負の歴史」を直視すべきとの趣旨の内容を盛り込んだ。声明には英国も合意した。 英議会の資料によると、英国は1562年から1807年まで奴隷貿易を行い、300万人以上のアフリカ人を北米やカリブ海の植民地に運んだ。チャールズ国王は10月21日、サモア入り前に訪問したオーストラリアで先住民の上院議員から「英国人は大虐殺をした。土地を破壊した。祖先の命を返せ」と罵倒される一幕もあった。 国王は今回のサモア訪問で、「過去を変えることはできないが、その教訓を学ぶことはできる」と述べたが、謝罪はしなかった。国王は個人的には過去の清算に前向きとされるが、「政治的に微妙な問題に関しては、国王の演説は政府方針の範囲内にとどまる」(英BBC放送)ことが慣例という。英国の政権は7月の総選挙で保守党から労働党に変わったが、政府見解は変わらず、現在のスターマー首相も「賠償には応じない」との立場だ。 英連邦首脳会議は2年に1回開催される。英メディアによると、次回は賠償問題が主要議題になる可能性があるという。 英連邦は、英国やカナダ、インド、オーストラリアのほか、アフリカやカリブ海の国などが加盟する緩やかな連合体。英連邦の総人口は27億人に上り、地球の全人口の約3分の1を占める。加盟国は行政や経済、保健医療など各分野で相互に協力でき、若者にとっては英国留学など教育支援を受けられるメリットもある。【ロンドン篠田航一】