「自在に動く」「相手の腹を突き刺す」…〝進化〟しすぎてスゴイことになった動物たちのオスの〝アレ〟
二つある、自在に動いて時には物を掴むこともできる、トゲだらけ……。これらはすべて動物のオスの生殖器の話だと信じられるだろうか。 【まるで手のように】すごい……自在に動いて〝目標〟を探り当てるマレーバクの生殖器…! 地球上に生命体が誕生した40億年前から、動物は進化と適応をくり返して生き抜いてきた。それぞれの動物の多様な体の仕組みやその習性は、環境に適応するために戦略的に進化してきた結果だ。その中でも形のうえでもっとも多様性に富んでいるものの一つが生殖器だという。 『生物と性 神秘の最適化戦略』(エマニュエル・プイドバ著 西岡恒男訳 求龍堂)では、ワニやダチョウからナメクジやトコジラミまで、32種類の生物の驚くべき生殖活動と、さまざまな形態に〝最適化〟したオスの生殖器と性行動を、色彩豊かな水彩画と繊細な鉛筆画を添えて解説している。その中からいくつかの〝驚きの生殖器〟の例を紹介する。 ◆自在に動いて物も掴める! マレー半島など東南アジアに生息するマレーバクのオスの生殖器は、まるで触手のように動かすことができるという。普段は蛇腹状に折りたたまれていて、体内に収納されているのだが、いざというときには自在に動いてパートナーであるメスの生殖器を探りあてるのだ。この動きは誘惑と繁殖のためのテクニックなのだとか。 もっといろいろ役に立ちそうなのはアフリカゾウの生殖器だ。大人になると2mもある堂々としたそれは、木の枝や果物などを拾うことができるだけでなく、立ち上がったり、ハエを叩き落としたり、腹を掻いたりすることさえできるという。すっかり〝第2の鼻〟といった感じなのだが、そんな器用に動く生殖器は体高4m、体重6tもの巨体で交尾するうえでは非常に便利なようだ。ちなみにメスの生殖器も長さ3mあるそうなので、それぐらいできないとお役目がつとまらないのかもしれない。 ◆ドリルみたいなことに! 鳥類の97%は腸管、尿道、生殖器が1つになった「総排出腔」を持っており、オスとメスは互いにこれをくっつけて交尾するため、ほとんどが”ペニス”は持っていない。だが、ハクチョウやカモ、ダチョウなどは繁殖期には”ペニス”が発達して交尾を行う。 その中でも、メスに比べてオスのほうが圧倒的に多いというマガモのオス同士の競争は熾烈だ。オスが少しでも繁殖の機会を得るために行った〝最適化〟が、ドリルのようにらせん状になった生殖器への進化だった。これはメスの生殖器へ強制的に挿入させやすくするためという、人間目線でみるととんでもない〝邪進化〟なのだが。 だが、ウソみたいな話だが、これに対抗してメスも膣をオスの生殖器とは逆向きのらせん状に進化させたのだそうだ。これで、力ずくの挿入を回避することができたわけだが、話はそれで終わりではない。それに対してオスはメスの曲がりくねった膣に合う長さの生殖器を獲得するという適応を見せたのだという。カモのメスにとって交尾はどこまでも災難でしかないようだ。 ◆相手の腹を突き刺す! マガモよりも、もっと激しいケースも存在する。「外傷性受精」を行うトコジラミのような例だ。「外傷性受精」とは文字通り、トコジラミのオスは注射針のような生殖器でメスの腹部を突き刺し、外骨格を貫いて精液を注入するというのだ。もはやメスの生殖器など関係なく、強制性交ですらない〝傷害〟だ。だが、それでもトコジラミの交尾でメスが腹部に持っている特殊な器官の働きにより、やがて精子が卵巣に届くのだという。 トコジラミのオスは1日に200回も交尾ができ、とにかくできるだけ交尾をして多くの精子をメスの体内に届けようとする。だが、メスはお腹に穴を開けられることで傷が化膿したり、寿命を縮めることもある。そこで、メスは進化するにつれて腹部がだんだん硬くなっているという。一方それに対するオスは生殖器をますます鋭く進化させているのだとか。ここまでくると、もはや交尾は闘いなのだ。 ◆骨がある! 人間の男性器にはもちろん骨はないが、哺乳類の中では「陰茎骨」という骨があるのはむしろ珍しくないらしい。大部分の霊長類をはじめ、クマ、猫、犬、アザラシ、コウモリ、アライグマなどにもあるという。 その理由はメスの生殖器への生殖器の挿入を長引かせて、競争相手にその機会を与えないようにし、受精を成功させるためらしい。その中でもセイウチの陰茎骨は最長の63㎝という長さを誇り、現在生息している哺乳類の中では大きさに対してもっとも重いという。シベリアで発見された1万2000年前のセイウチの陰茎骨の化石の長さはなんと1.4mもあった。 メスの場合も多くの種では陰核の内側に「陰核骨」が備わっている。なぜ「陰茎骨」や「陰核骨」がある種とない種がいるのか、ヒトにはなぜないのかは未だ謎だ。 これ以外にも、チビミズムシの「歌うペニス」やアオイガイの「取り外しできる陰核」、バンドウイルカの「同性愛」や、コバナフルーツコウモリの「オーラルSEX」など、さまざまな多様性に満ちた動物たちの生殖器と性の世界を本書では紹介している。これらと比べると、人間のSEXなんて意外にフツーに思えてしまうのだ。
FRIDAYデジタル