アジア人シェフとして初の三ツ星を獲得!映画『グランメゾン・パリ』の監修を務めた小林圭が描く未来「99%の苦しさと1%のうれしさだけ。楽しさは一切ありません」
2020年、パリ1区に構える「Restaurant KEI(レストランケイ)」で、フランス版ミシュランでアジア人シェフとして初の三つ星獲得という快挙を成し遂げた小林圭シェフ。2021年には静岡県御殿場市で「Maison KEI(メゾンケイ )」をオープンさせ、その1年後にエスクァイア日本版はインタビューをさせていただいた。 【写真】2024年に東京にもニューオープン!「KEI Collection PARIS(ケイ・コレクション・パリ)」の様子 それから月日は流れ2024年、パリを拠点としている小林シェフだが、東京に「Héritage by Kei Kobayashi(エリタージュ バイ ケイ コバヤシ)」「KEI Collection PARIS(ケイ・コレクション・パリ)」「ESPRIT C. KEI GINZA(エスプリ・セー・ケイ・ギンザ)」という3つのレストランを新たにオープン。それが少し落ち着いた頃、今回も小林シェフに話をうかがうことができた。
99%の苦しさと1%の喜びで走り続ける先に目指すもの
エスクァイア:「KEI」をブランドにすることを目指しているそうですが、具体的にどういったビジョンを描いていらっしゃるのでしょうか? 小林シェフ:ファッションブランドを見るとわかりやすいですが、1つのブランドの中にメンズやレディース、フレグランスなど多様なカテゴリーがあり、これらがあってブランドの世界観が確立すると考えています。 「KEI」も同様です。世界観をつくるうえで必要なものをまだそろえている段階なのですが、「レストランケイ」がいわゆるブランドの核となるオートクチュール、「メゾンケイ」や、今回オープンした3つのレストランがカテゴリーといった具合です。 エスクァイア:その軸にあるのが、先ほどの「リュクス」ですね。 小林シェフ:的外れなものが、一つでもあってはなりません。リュクスがリュクスではなくなりますから。例えばエルメスが全く違うのものを売りだしたら、エルメスではなくなってしまいますよね。 今後できるものとして、パティスリーや農園、オーベルジュなど、さまざまなことが考えられるでしょう。「メゾンケイ」が地域活性化を目指すように、料理でできる社会貢献も考えています。 単に寄付して終わりという形ではなく、仕組みから変えていけるような…。ただし、やたら増やし続けるのではなく、世界に向けて「KEI」というブランドを発信するうえで絶対に押さえるものは決まっています。 この春に東京に3つのレストランがオープンしましたが、コロナの影響もあって時期がちょうど重なっただけであって、日本に主戦場を移したわけではありません。自分が闘う場所は、あくまでパリですから。 エスクァイア:年末に公開を控えている映画『グランメゾン・パリ』の料理監修を務められましたが、これも前からやってみたいことの一つだったのでしょうか。 小林シェフ:全く考えていませんでしたが、「業界を活気づけたい」という想いから引き受けさせていただきました。 この10年ぐらい、飲食店で働きたい、サービス業で働きたいという人がどんどん減ってきているように感じていました。そんな状況を受けて、この仕事にたくさんの魅力があること、多くの人を魅了できるということを映画を通じて伝えたいと思いました。誇れる仕事であると知ってほしいのです。 エスクァイア:今回は「レストランケイ」もありながら新規レストランのオープン、映画の料理監修と、かなり多忙な日々が続いたことかと思います。さらなる高みへと走り続ける小林シェフを支えているものは何でしょうか? 小林シェフ:負けず嫌いの精神ですね。最大のライバルは自分。妥協したら負けた気持ちになるし、今の自分に勝っていくことが大事だと常に思っています。 エスクァイア:アスリートのようなストイックさですね。 小林シェフ:本当、苦しいですよ。1日が終わったときには精根尽きた状態ですし、「ああ、よかった」とは思いません。料理を出す瞬間は、そのときには「よし! これで行く」と思うのですが、だけどやっぱり何百回も「次だったらもっとこうできる」とも思うのです。 こうした日々にあるのは、99%の苦しさと1%のうれしさだけ。楽しさは一切ありません。うれしさは何か? というと、お客さまからの「最高の時間をありがとう」といった言葉や、一緒に働いている仲間からの「ここで働けてよかった」といった言葉ですね。