『オクラ』中村俊介に捧げるレクイエム 「ハイド・アンド・シーク」に隠された謎
『オクラ~迷宮入り事件捜査~』(フジテレビ系)第6話では、反町隆史と中村俊介のコンビが躍動した。 【写真】ラストでまさかの死を遂げた加勢(中村俊介) 今回、千寿(反町隆史)がピックアップしたのは、11年前に都内の料亭で起きた永倉副総理(尾竹明宏)の暗殺事件。当時、容疑者とされた永倉の息子で秘書の揮一(簑輪裕太)は、世間のバッシングに耐えきれず直後に自死していた。千寿は警察内部の犯行と考え、料亭の別室にいた老人の客に犯人の目星をつける。犯人は酔ったふりをして配膳室に侵入し、何らかの方法で毒物を永倉に飲ませた。揮一の遺書から公安部の高見(高杉亘)の関与が疑われたが、高見は否定。そこで、千寿と利己(杉野遥亮)は証拠のねつ造を企てる。事件当日の監視カメラから、犯人がスポイトで永倉の茶碗に毒を混入させたことを突き止めると、用意したスポイトに高見のDNAを付着させた。 第6話では、警視正の加勢(中村俊介)が千寿と行動を共にした。千寿と同期の加勢は、何者かから千寿を始末するように命じられ、その機会を窺っているような不気味さがあった。タレコミメールが同一人物から送られていることを把握しており、未解決事件の捜査が千寿の自作自演であると見抜いていたと思われる。あえて千寿たちを泳がせているように見えたが、捜査に同行した理由は別にあったことが徐々にわかってくる。 回を追うにつれて『オクラ』は単なる捜査ものを超えて、政界や警察組織を巻き込んだ一大クライムスペクタクルに変わりつつある。折り返しとなる第6話は分岐点であり、中村俊介演じる加勢の死は変化を象徴するものだった。加勢が千寿に同行したのは、オクラの捜査を利用して自らの責任を高見に転嫁し、12年前の事件を闇に葬るためである。千寿は加勢が永倉を殺したことに気づいたが、犯人検挙の前に高見は加勢に狙撃されてしまった。
刑事ドラマのエレジーを体現した加勢(中村俊介)
加勢が千寿から奪おうとしたものはもう一つある。未解決事件が記された「ハイド・アンド・シーク(HIDE & SEEK)」のファイルだ。千寿が元バディの結城(平山祐介)から譲り受けたデータには、事件の詳細と犯人のプロフィールが記されている。内容は随時更新されているようだが、千寿自身も誰が大元でファイルを管理しているか知らない。加勢と裏で手を引く人間にとっては、ファイルの存在そのものが真偽不明だったようだ。 「隠れる」を意味するHIDEと「探す」を意味するSEEK。なにやら意味深なタイトルのファイルを誰が何のために作ったのか? 高見の「ハイドとシークは共存する」という言葉は、ジキルとハイドのように、一人の人物あるいは組織が異なる顔をあわせもつ可能性を示唆していないか。また、高見や死んだ結城はどこまで知っていたのか、など謎は深まるばかりである。一つ言えるのは、そこには加勢や黒幕にとって都合の悪い情報が記録されており、連続刑事殺人事件と何らかのつながりがあるということである。 数々の刑事ドラマに出演し、『浅見光彦シリーズ』(フジテレビ系)の主演として名を馳せた中村俊介は、哀愁を漂わせる刑事を演じきった。加瀬の死はある種の殉職である。たびたび登場する洗濯の挿話は、罪を洗い流すメタファーだった。ジーンズとYシャツを一緒に洗ってしまう加勢にとって、ジーンズは素の自分でYシャツは刑事の姿である。罪を背負い、魂を売った自身を「どぶになんか捨てなきゃよかった」と悔いる加勢は、最後まで本心を偽れなかった。スポイトで混ぜた毒に、加勢の良心は苦しみ続けた。事件を隠ぺいしようとした加勢は、千寿に気づいてほしかったのかもしれない。悲劇の主人公だった加勢は、伝統的な刑事ドラマのエレジーを体現するキャラクターだった。
石河コウヘイ