ケアから取り残される犯罪被害者遺族の子供たち…アドボカシーの重要性
■1年後に起きた突然の「変調」 神戸:初めてそれが爆発して心の中から出たのは、高校に入ってからでしたね。 木戸:学校に行こうとした瞬間に足が動かなくなって、養護の先生がいる保健室に何とかたどり着いて、初めて自分の気持ちを言えたということでした。 神戸:ずっと我慢して、でも1年後には完全に心身の不調が表に出るほどになってしまった。被害者家族の、特に子供さんを対象にしたケアが実は後回しになってしまっているのではないでしょうか。 木戸:大人とか家庭とかを広く支える被害者支援はあるんですけど、被害者の遺族、特に遺された子どものケアについてはまだまだ不十分なところがあると思います。お父さんも当然ケアしないといけなかったと思うんですが、息子さんがどんな気持ちになっているか、家族含め、周りの大人が気づく環境がなかった形ですね。 神戸:その後、お父さんにちゃんと話せたことが大きかったんでしょうか。 木戸:そうおっしゃっていました。養護の先生に話した後、学校に行けなくなった。それをお父さんに話すことができて、少しずつ関係が修復されていったとお話しされていました。 神戸:自分の本当の心を、親子なのに話せない。環境としてちょっとおかしくなってしまっているんだろうと思いました。 ■「子どもアドボカシー」とは 神戸:「子どもアドボカシー」とは、どういうことだと理解したらいいですか。 木戸:「子どもアドボカシー」とは、まず子供自身に「自分の伝えたいことは伝えていい権利がある」と伝え、自分の気持ちを誰かに伝えられるようになってもらう、ということです。子供自身は自分の言葉だけではなかなか伝えられないので大人がサポートをしたり、1人で言うのがつらい時は代わりに伝えたりする事業です。 神戸:今悩んでいるお子さんがいたら、どうしたらいいんですか。 木戸:「社会的養護」、例えば虐待を受けたお子さんとか親御さんが育てるのが難しいお子さんたちの声を聞く活動をやっていて、少しずつ学校や地域にも広がってきています。今、福岡市にある警固公園に集まる若者の声を聞く活動をずっとやっています。地域に少しずつ声を聞く方が広がってきているので、「ぜひ話を聞いてほしい」と伝えてほしいです。社会福祉士という仕事は、声を聞いた後に「環境調整」、その子の生活を整えていくためのサポートをするための機関なので、お子さん自身や親御さんからご相談を受けて対応ができるような形になっています。 神戸:御手洗さんのお話をうかがって、本当にケアが必要だと改めて感じました。事件が起きてしまった後、遺された人たちがどうしたらいいのか、社会で考えていかなきゃいけないと、セミナーに参加して感じていました。
■◎神戸金史(かんべ・かねぶみ) 1967年生まれ。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。ニュース報道やドキュメンタリー制作にあたってきた。やまゆり園障害者殺傷事件やヘイトスピーチを題材にしたドキュメンタリー最新作『リリアンの揺りかご』は各種プラットホームで有料配信中。
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