経済学の権威が断言「国民民主党の目先の手取りアップ策では、国民の暮らしは一向に上向かない」
■「実質 玉木首相」で大丈夫なのか 与党が大敗し、国民民主は大幅な躍進を遂げた今回の衆議院議員選挙。石破茂政権は、与党だけでは衆議院で過半数の議席を確保できず、国民民主の協力が不可欠となった。そのため、両者が経済対策や税制改正などの重要な案件ごとに協力する、「部分連合」を目指すことになった。「実質 玉木首相」といった見方もある。 【写真】自民党総裁 石破茂氏 新内閣が発足後に打ち出す政府の経済対策において、国民民主が、重要政策のキャスティングボードを握ることで、政府の経済政策、ひいては私たち国民の生活には、どのような変化が生じるのだろうか。 ■改革が不利となった二つの選挙 自民党の総裁選挙から衆院選までの2カ月弱の間で、政治・経済に関わる多くの政策論争が行われた。自民党の総裁選挙では、9人の候補者が乱立したが、現行制度の改革を明確に打ち出した小泉進次郎氏と河野太郎氏は決選投票に残れなかった。 逆に、改革よりも積極的な財政拡大政策を訴えた高市早苗氏が躍進した。石破茂氏も、もっぱら岸田文雄前首相の路線継承の安全運転を堅持したことで総裁の座を勝ち取った。 衆院選では、政治とカネ問題で批判を浴びた自民党が劣勢となり、同じ保守系で野党の国民民主と維新は、共に政党法の改正などで、政治の革新を唱えた。 ただ、成長戦略として、ライドシェアなどの規制改革を訴えた維新と比べて、国民民主党は、減税・社会保険料の軽減や生活費の引き下げで、「手取り所得引き上げ」を打ち出したことで議席数を大幅に増やした。いずれの選挙でも、「改革よりも財政支援」が支持されたことが共通している。
■手取り所得の引き上げ 国民民主党がもっとも重視している公約が、所得税の基礎控除などを103万円から178万円に引き上げる所得税減税である。これはパートタイム主婦の賃金が一定水準を超えると、自ら厚生年金保険料を負担しなければならず、その水準に達する前に働く日数や時間を抑えてしまう「働き方の壁」と同じ問題に対応し、さらに手取りを増やすためのものである。 この改正で大きな影響を受けるのは、パート主婦よりも学生アルバイトである。 学生は厚生年金の適用対象外だが、所得税の基礎控除と給与所得控除を合わせた103万円を超すと、世帯主が扶養控除を受けられなくなる。これは増税となるだけでなく、扶養控除とリンクしている会社の子ども手当も失うことになる。 この学生のアルバイト収入の上限が、年間100万円程度に抑制されてきた現状から大きく改善されるならば、喜んで国民民主党に投票した若年者は多かったであろう。 ■年金改革との整合性 所得税の基礎控除と給与所得控除の合計額は、1995年に103万円に定められて以来、据え置かれてきた。このため過去のデフレ期はともかく、最近の物価や最低賃金の上昇に応じて、基礎控除額を引き上げることには一定の合理性がある。しかし、それを一挙に7割も増やすことは妥当か。ここは大いに議論の余地がある。 働き方の壁への対策としては、同様の問題に対する年金保険料の改正との矛盾も生じる。なぜなら年金審議会では、この問題に対して、対象となる中小企業の規模や労働者について適用基準を、現行水準よりも、逆に引き下げることで就業調整を防ぐ方向での審議が進められているからだ。 あえて引き下げようとしているのは、例えばパートタイム主婦について保険料を負担する賃金の水準を高めても、そこで新たな働き方の壁が生じてしまい、結局、いたちごっこになってしまうからだ。 他方でこの年金保険料の適用基準について、「手取り所得引き上げ」を公約とする国民民主は、より高い賃金水準まで負担しなくて良い仕組みで泣ければ整合性がとれない求。弱い立場にある自民党は彼らの言い分をそのまま受け入れるのだろうか。