経済学の権威が断言「国民民主党の目先の手取りアップ策では、国民の暮らしは一向に上向かない」
■社会保障改革に期待 社会保障分野の改革では、すでに所得が一定水準以下の層の所得を保障する「給付付き税額控除」などの導入が挙げられている。これは国税庁が、所得のある者には税金を課し、逆に所得のない者には税金を還付する仕組みである。 そのためには、現行の生活保護の受給者は「働くとむしろ不利となる」という生活保護制度の改革が前提となる。また、生活保護という国の支援を受ける前提として、家族の扶養義務優先という“イエ制度”の改革を実現できるか。自民党の保守派をじょうずに説得できるかどうかは全くの未知数である。 筆者が国民民主党に期待したいのは、旧民主党の重点政策でもあった基礎年金の税方式化である。これは現行の国民年金保険料を年金目的消費税に置き換えるもので、すでに保険料を納付している者には「増税」にはならない。 強制的に徴収する税方式にすることで未納付者がなくなり、年金財政の安定性が維持される。また、20歳以上の国民全員に基礎年金が保証されるため、現在は会社員や公務員の夫(配偶者)に扶養されて保険料納付しなくてもいいことが多いパートタイム主婦も実質的に納付することになるため、働き方の壁も自動的に解消することとなる。、働き方の違いにかかわらず年金の公平性も確保されるわけだ。 国民民主党が、現役でバリバリ働く勤労者の税や保険料負担を抑制し、「手取り所得」の引き上げを打ち出したことは、もっぱら高齢者福祉を重視してきた与党との対比で高く評価できる。 ただ今後、実質的に政権の一翼を担う立場になる以上、新しい政策の財源をどこに求めるかといったバランスが重要となる。そのためにも、目先の減税だけに依存するのではなく、日本経済の構造改革を通じた成長戦略重視の政策を期待したい。(なお、本稿は、制度・規制改革学会の提言にもとづいている) ---------- 八代 尚宏(やしろ・なおひろ) 経済学者/昭和女子大学特命教授 経済企画庁、日本経済研究センター理事長、国際基督教大学教授、昭和女子大学副学長等を経て現職。最近の著書に、『脱ポピュリズム国家』(日本経済新聞社)、『働き方改革の経済学』(日本評論社)、『シルバー民主主義』(中公新書)がある。 ----------
経済学者/昭和女子大学特命教授 八代 尚宏