99%が税金の半導体会社「ラピダス」はもはや国有企業…そのウラにある経産省の「思惑」
4兆円もの補助金が
千歳市、菊陽町だけではない。政府は全国各地の半導体工場に2024年度までに総額1兆6400億円の補助金を拠出する予定で、2021年度から2023年度までに確保した半導体補助金の予算は4兆円に及ぶ。税金を元手に、各地で「官製半導体バブル」が生まれている。 被災者の生命・生活に直結する能登半島地震の復興予算(約4000億円)の10倍、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の国負担(約1600億円)の25倍に当たる血税が、半導体という特定の産業に注がれるのだ。 しかも終わりが見える復興予算や万博と違い、半導体産業の育成には継続的な投資が必要となるため、国の半導体産業に対する補助金はこの先もどんどん膨らんでいく可能性がある。 AIや自動運転などの次世代技術で鍵を握る半導体について、世界中で国を挙げての支援競争が続いているが、3年間で約4兆円に上るという日本の補助金は、国の経済規模に照らしても突出している。他国の政府関係者が「日本の国民は半導体産業にこれほどの公的資金を投入することに、納得しているのか」と疑問を呈するほどだ。
「半導体の五稜郭」
問題は金額の巨大さだけではなく、その使い方だ。例えば、冒頭の千歳市で工場建設が進む国策半導体会社のラピダス。2022年に設立されたこの会社は業界で「半導体の五稜郭」と呼ばれる。 日本が世界の半導体市場で50%のシェアを握った1990年代の栄光を忘れられない人々が「夢よ再び」と集結したことから、大政奉還後に旧幕府軍が立て籠もり、新政府軍に最後の抵抗をした五稜郭に見立てられたのだ。 ラピダスは、2019年にIBMのCTO(最高技術責任者)だったジョン・ケリー氏が、半導体製造装置メーカー、東京エレクトロンの元社長・東哲郎氏にかけてきた一本の電話をきっかけに誕生した。 「IBMが2ナノメートルのロジック(半導体内部でデジタルデータの演算・処理を行う機能)を開発した。技術提供をするから日本で製造しないか?」 ケリー氏に持ち掛けられた東氏は「日本半導体産業の復活にとって、これが最後のチャンス」と奮い立ち、経産省や自民党に駆け込んだ。 これに飛び付いたのが自民党で半導体戦略推進議員連盟会長を務める甘利明氏や、経産省商務情報政策局の野原諭局長ら、政官の「半導体推進派」だ。 TSMCと比べてラピダスが異様なのは、民間の出資が少ないことだ。トヨタ自動車、デンソー、NTT、NEC、ソニーグループ、ソフトバンク、キオクシア、三菱UFJ銀行と錚々たる企業が出資者に名を連ねるが、金額は三菱UFJが3億円、その他7社が10億円ずつの計73億円。民間の出資比率はたった0.8%だ。TSMC熊本工場への投資に占める補助金率は約40%だが、ラピダスは99.2%で事実上の国有企業と言える。 民間が「勝てる見込みはない」と見切って、雀の涙しか出資しないプロジェクトに国が1兆円もの血税を投入する。昔の電電公社や国鉄のように「親方日の丸」でモラルハザードに陥らないか。事業が失敗したら誰がどう責任を取るのか。