学校のアンガーマネジメント―学級全員の前で叱るのはあり・なし?
事例9 指導の成果が上がらない理由に悩む小学校6年生担任
小学校6年生の担任です。児童同士のトラブルが続いています。自分の機嫌がよいときはうまく指導ができますが、強く怒ったり、「6年生なのだからできるだろう」と児童の自覚を促したり、学級全員の前で注意したりしても、一時的に収まるもののトラブルは再燃します。指導の成果が上がらない理由がわからず、疲弊しています。今後どのように指導したらよいか、理由も含めて教えてください。
“アンガーマネジメント”を取り入れた対応 怒りの正体を思い出す
小学校最終学年、児童の順調な成長を期待していても意外と問題が起きがちです。問題が起きるのがいけないのではありません。集団生活で児童同士のぶつかり合いはあって当たり前。教職のスキルを高める機会と捉えることをお勧めします。問題がないというのは、実は先生の見えないところ、水面下で問題が起きていると考えた方がよいでしょう。 ご質問を拝見し、自分の怒り方が正しいと思っているのではないかと感じました。怒りの正体は「誰か」や「出来事」ではなく、自分の「べき」という言葉。「べき」は自分にとって全部正解ですから先生が正しいと感じるのも当然です。 アンガーマネジメントはそれを理解した上で、相手への受容度を上げることを目指します。4つのNG態度を知り、上手に叱れる先生になります。
NG態度を知り、上手に叱る
1.不機嫌だから怒る ➡ 一貫性を持つ 「機嫌がよいと指導がうまくいく」と判断されていますが、不機嫌なときにはどうでしょうか。 1月号で解説した思考のコントロール「三重丸」を思い出してください。「まぁ許せるゾーン」を機嫌で動かしていると、児童は「ブレている」と感じます。先生自身が、児童が指導を受け止められない状況を作っています。先生の怒る基準が定まらないのであれば、児童は怒られても平気になってしまいます。児童への指導の際、機嫌によってルールを変えないように一貫性を持つことが大事です。いつでもどこでも誰にでも同じ基準で叱ることを心がけてください。 2.感情的に怒る ➡ リクエストを明確に 5月号で解説したとおり、感情的に怒ること自体、やってはいけないことです。感情的に怒ると相手が「怖い」「避けたい」と感じ、相手へのリクエストが伝わらないからです。「これぐらいは言わなくてもわかっているはず」ではなく、6W3H(いつ、どこで、誰が、誰に、何を、なぜ、どのように、どれぐらい、いくら)を意識して正確に伝えます。興奮すると声が上ずります。気持ちを落ち着け、ゆっくりと低いトーンで話します。 3.人格を攻撃 ➡ 事実、結果等変わらないもの 「6年生だからできる」という発言は言外に「6年生としての能力に欠けている」といった先生の主観や思い込みがあるのではないでしょうか。性格・人格・能力など人によって評価が変わることをもとに叱るのは人格の攻撃にあたります。トラブルの事実、結果、言動など変わらないものをもとにして相手にどうしてほしいのかを伝えます。 4.人前で怒る ➡ 一対一の場を設ける 学級全員の前で叱れば一度で効果を上げられると思いがちですが、児童は見せしめにされて屈辱的だと感じ、反発を生むため、避けたい方法です。 一対一、フェイス・トゥ・フェイスの場を設けることが大事です。なお、ここでも冷静に対応することが求められます。児童が「先生にこう言われてショックだった」と保身し、保護者に言いつけることもありますので、細心の注意を払います。 5月号の「変化ログ」を参考に、言いがちな言葉を別の言い方に変える、取りがちな行動をやめるなど、具体的に考えます。「これからどうしたいか」という未来志向での問いかけも効果的です。児童はブレずに叱る先生に信頼を寄せてくれます。 参考:『アンガーマネジメントトレーニングブック2024年版』(ミネルヴァ書房 監修 日本アンガーマネジメント協会) 川上 淳子 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会認定アンガーマネジメントコンサルタント®。Edu Support Offifice代表。元宮城県公立小学校教諭。元国立大学法人宮城教育大学非常勤講師。 *『月刊教員養成セミナー2024年6月号』 コロナ禍を経て、なお先行きが見えない今、教室を安心安全な居場所とする働きかけが急務です。アンガーマネジメントの理論と方法は、児童同士、児童と担任を繋ぎ、よりよい関係づくりに活かすことができます。場面指導でも問われるケースを解説します!