屋比久知奈「道は一つじゃない」モアナが与えてくれた気づき:インタビュー
歌手・俳優の屋比久知奈(やびく・ともな)が、『アナと雪の女王』のディズニー・アニメーション・スタジオが贈る最新作の映画『モアナと伝説の海2』(公開中)に出演。前作に引き続き、日本版声優として、海と特別な絆で結ばれたヒロイン、モアナを演じる。本作は、第89回アカデミー賞(R)、第74回ゴールデングローブ賞など数々の映画賞にノミネートされた『モアナと伝説の海』の続編。海を愛するモアナが新たな運命へと漕ぎ出す冒険物語を、ディズニーらしい数々の音楽が彩る感動のミュージカル・アドベンチャー作品。インタビューでは、再びモアナを演じてみて感じたことから、本作のメイン楽曲のひとつ「ビヨンド ~越えてゆこう~」を歌唱するにあたり込めた想いについて話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】 ■自然とモアナとリンクできた ――どんなことを感じながらアフレコをされていましたか。 1作目がしっかり終わった感じがあったので、続きがあると嬉しいなと思ってはいたのですが、あまり想像できていませんでした。なので続編のお話を聞いた時は本当に嬉しくて。シンプルにどういうお話なのか、モアナがどんな冒険に出るのか、イチ作品のファンとしても楽しみにしていました。 前作から3年後の物語なんですけど、モアナが大人になっていて、見た目などディズニーさんの技術がすごいなと思いました。表情、髪型、服装などから3年の月日がわかるんです。新しい目的に向かって海に出るのですが、さまざまなものを抱えた上での不安が描かれており、共感しました。私自身は、前作から7年経ちましたが、私もいろいろ経験をさせてもらって、自然とモアナとリンクできたと思っていて、無理なくモアナとしていられました。 ――この7年間がどんな風に反映されましたか。 自分では反映されていたらいいなと思うのですが、年齢を重ねてもあまり変わっていない気がします。私が意識していないところでは声だったり表現の方法は変わったのかなって。私はこの7年間で多くの舞台をやらせていただいたので、一生懸命セリフ読んでいた7年前とは違って、技術面で少し成長した部分を出せたらいいなと思いながらアフレコに臨みました。 オリジナル版の声優のアメリカのアウリィ・クラヴァーリョさんも大人になっていたので、モアナの声や所作も大人になっているのですが、自分も大人になってみようという気持ちでやるよりも、自然に出てくる自分の経験や成長が表現できたらいいなと思いました。そこが作品の魅力だと思いましたし、やりすぎない方がいいなと思いました。言い回しや感情の込め方が過剰になると、作品が持つピュアな魅力が損なわれてしまうと思ったので、あえて余計なものを出さないことを意識していました。 ――楽曲「ビヨンド ~越えてゆこう~」はどのような気持ちでアプローチされましたか。 大人になったモアナの焦燥感がすごく感じられる楽曲で、モアナの葛藤が表現できたらいいなと思いながら歌いました。私とリンクしたのが、純粋に外の世界にただただ憧れ新しいものを見てみたいけれども、家族とか守らなきゃならないものも増え、安易にそこにいけない怖さがあると思いました。 ――ありのままで歌うような感覚も? それは意識しました。当時のことを思い出しながらも、まっすぐ歌うことを意識して臨みました。私は過去の自分の声はあまり聞かないんですけど、今回改めて聞いた時、今の自分には出せない声だなと思いました。それは悔しくもあり、でも成長ってそういうことだなと思ったり、複雑な心境でした。無理に出そうとしないで、自然に出てくる声の方がこの曲には合っていると思いました。当時はとにかく一生懸命歌わせていただきましたが、今回は余計なものをできるだけ削ぎ落として伝えられたらいいなと思いました。 ――レコーディングはワンテイクが理想だとしても、試行錯誤しながら録音したんですね。 ワンテイクは理想ですね。でも、ライヴとかで歌う時は必ずワンテイクなので、イベントなどに参加させていただいたときにできる表現として見せられたらと思っています。今回は収録だからこそできる表現を、ディレクターの方と一緒に、オリジナルに忠実に、日本語で私が歌うからこそできる表現を大切にしながらレコーディングしました。生歌唱では音源で聴くのとは違った表現ができると思うので、そういった違いも楽しんでもらえるのかなと思っています。 ――サブタイトルに「越えてゆこう」とありますが、屋比久さんが越えていきたいものはありますか。 人見知りを克服したいです(笑)。今回の作品も人との関わり、仲間が新たにできたり、一人じゃないというつながりを感じる作品でもあったので、私も積極的につながれたらいいなと思っています。友達をつくりたいです! ■「大丈夫だよ」と言ってもらえていた感覚があった ――新しいことに挑戦する時はどんなことを糧にして挑みますか。 準備や努力は糧になりますし、それに加えて支えてくれる人たちの存在はすごく大きいです。また、私の母がバレエの先生をやっていた影響で、私も幼い頃からバレエをやっていました。その頃母によく言われていたのは、「努力というものは絶対裏切らない、努力をする時に頑張ることが大事」と教えられていて、頑張ってきたことは必ず何かしらの形で返ってきますし、自信にもなります。稽古などで一歩一歩階段を登ってきたという事実が支えてくれている、この7年間お仕事をさせていただく中で強く感じています。 ――今の屋比久さんにとってモアナはどういう存在になっていますか。 私の一部になっています。前作ではモアナの言葉や作品のメッセージ、音楽にすごく支えてもらいました。私の中の大切な部分として、きっとこれからも生き続けるキャラクターなんだろうなと思います。モアナを演じられたことで自信にもなりましたし、初心に帰らせてくれる存在でもあります。 ――7年間、様々な舞台を経験されてきましたが、モアナは屋比久さんの中に常にいましたか。 いたと思います。前作で私の好きなセリフの一つに、「私には選ばれた理由がある」という言葉が糧になっていて、不安だったりプレッシャーを感じたときに、自分も一緒にその言葉を発したことで、「大丈夫だよ」と言ってもらえていた感覚がありました。『モアナと伝説の海』を観てくださった方々からも、「モアナが好き」、「曲聴いてるよ」とか、嬉しい言葉をいただけているので、モアナはずっと私と一緒にいるんだろうなと思います。 ――『モアナと伝説の海2』のセリフで、特に印象に残った言葉はありましたか。 モアナのセリフというわけではないのですが、「道は一つじゃない」という言葉です。経験を重ねていくと人間は凝り固まってしまうところがあると思います。モアナはこの3年間、いろんな海を旅してきて、さまざまな経験をしてきたからこそ、こうじゃなきゃいけないとか、こうありたいという姿があったんじゃないかと思います。モアナが仲間に頼れなかった時に掛けられたその言葉によって可能性が広がって、自分がやってきたことも含めて間違いはない、仲間を信じていたからこそ見えてくる別の道があるというのは共感しました。 私の中にもモアナはこうじゃなきゃいけないという固定観念はあったと思います。表現方法もこれまで培ってきたものがあったけど、モアナを演じるにあたり、それも違うかもしれないと思いました。私の中でまた世界が広がるセリフでした。 ――『モアナと伝説の海2』を観た方にどんなメッセージが届いたら嬉しいですか。 今回も前作と同じく勇気をもらえる作品になっていると思います。どの世代にも完璧な人はいないですし、絶対悩みもあって、怖いと感じることもあると思います。だからこそ乗り越えられる何かがある。葛藤がなかったら、何も残らないような気がしています。その迷いを乗り越えて踏み出す一歩というものがすごく大事で、自分を信じて前に進むことで見える何かがある。前に進むことが大事であって、結果は後から必ずついてくると思います。自分の考え方次第できっとプラスになるということを、本作から感じてもらえたら嬉しいです。 (おわり)