ザックが東アジア杯組を10人も呼んだ理由
豊田と柿谷への期待
もっとも、東アジア杯組からウルグアイ戦へ招集された新顔の中でも、豊田陽平(サガン鳥栖)と柿谷曜一朗(セレッソ大阪)の両FWは置かれた状況が大きく異なる。 故障明けを考慮してFWハーフナー・マイク(フィテッセ)に招集レターを送付しなかったザッケローニ監督だが、チーム発足時からワントップを務めてきたFW前田遼一(ジュビロ磐田)の招集をも今回は見送っている。その上で、豊田と柿谷を「できるだけゲームで使っていきたい」と明言したのだ。 前田の仕事は、前線でのポストプレーで確実にボールを収め、本田や香川らが自由に動けるスペースを作り、守備でも豊富な運動量で「一の矢」を担うことだ。しかし、前田の代表におけるゴールは昨年9月のイラク代表とのW杯アジア最終予選を最後にない。ジュビロでも現在わずか4ゴールにとどまっている。 もともと感情を表に出さず、ゴール前で淡々とプレーする前田だが、チームの勝利のために黒子に徹しようという気持ちが強すぎるのか、19節を終えてシュート数が2本以下の試合が実に「16」もある。 対して豊田は泥臭いプレーを身上としながらも、オレがチームを勝たせるとばかりに貪欲にゴール前へ顔を出し、リーグ2位タイの13ゴールをマークしている。こうした点でも、ザッケローニ監督の中で評価が逆転したのだろう。 「ベテランは信頼しているし、持っている力を計算できる。前田はコンディションが上がらない時期が続いたが、先に視察した時にはようやく上がってきた感じだったので、今回はそっとしておこうと思った(笑)。決して脱落というわけではない。(豊田のJでの)ゴールの数だけが選考基準ではない。チームメイトのためにスペースを作る動き、チームメイトが得点する可能性を与える動きを実践しながら、自分も得点できそうな動きを見せていた。だから今回も豊田を選んだ」 ウルグアイ戦の先発には、これまで前田に求めてきた役割を、よりスケールアップさせたような献身的なプレーに加えて、ゴールへの迫力を前面に押し出す豊田を起用すると考えられる。これまでと同じ戦い方の中で、豊田がどのように常連組と融合するかを見極め、ゴールが欲しい時間帯に、どのワントップ候補とも異なるプレーリズムを持つ柿谷を投入する。こんなシナリオになると推測する。 すでにザックジャパンの攻撃パターンは、対戦相手にも知れ渡っている。 いわゆる「右で崩して左で決める」という攻撃パターンだ。しかし、常に相手の最終ラインの裏を狙い続ける柿谷が、ワントップとして融合すれば、指揮官が望んだ「意外性」へとつながっていく。 ザッケローニ監督は柿谷の底知れぬ才能を「以前から高く評価してきた」という。 「準備ができていない状態で代表に呼んで、柿谷の可能性を潰したくなかった。時には遅すぎるくらいの時に代表に入れるのもいい。ゆっくりでいいからチームに馴染んでほしい。彼の完成度が増せば、ワントップでも2列目でも、攻撃のあらゆるパートをこなすことができる。あくまでも完成することは前提なので、あまりプレッシャーをかけることなく、今はゆっくりと見守ってあげてほしい」 ポストプレーヤーではない柿谷が、ワントップに入れば、チームに劇的な変化を生む。 守る側にとって、最終ラインの背後を突かれることは失点の確率が高まることを意味する。当然、柿谷をケアせざるを得ず、最終ラインもズルズルと下がる。必然的にバイタルエリアにスペースが生じ、本田や香川の2列目がより生きるようになる。本田が得意とするミドルシュートを打つ機会も増えるだろう。 また東アジア杯の韓国戦のようにW杯本大会でFIFAランク上位の強豪国と対戦する時には、90分間劣勢に立たされるケースも考えるだろう。そういう展開では、あの韓国戦の時のようにカウンターのロングボール一発に抜け出して決めきる柿谷の存在は貴重だ。そういう攻撃の選択肢は増えしておきたい。 ザッケローニ監督は、今回、招集されなかった選手たちの全員に代表入りの可能性があることを明言した上で、あらためて残り10か月間のベクトルを示した。 「チームの引き出しとバリエーションをかに増やしていくかに重点を置きたい。そうした目的の中で、今後も代表メンバーをいじっていく」 最初に選ばれた23人は12日に宮城県内に集合し、2日間の準備期間を経てウルグアイ戦に臨む。ザックジャパンをバージョンアップさせるための第一歩がいよいよ踏み出される。 (文責・藤江直人/論スポ)