「聞こえないから会議に参加しなくていい」:聴覚障がい者の7割が職場でハラスメントを経験、どう対策するか
NPO法人インフォメーションギャップバスター(IGB、横浜市)がこのほど、聴覚障がい者向けの「職場でのハラスメント対策パンフレット」を作成した。その発端となったのは、同団体が実施したアンケート調査だ。聴覚に障がいがある回答者の7割がハラスメントや差別を経験し、そのうち7割が解決に至っていないことが判明した。(オルタナ副編集長=吉田広子) 2016年4月に改正障害者雇用促進法が施行され、雇用分野での合理的配慮の提供が義務化された。「合理的配慮」とは、障がい者と障がい者でない人との均等な機会を確保するための措置で、一人ひとりの特徴や場面に応じて発生する障害や困難を取り除くための配慮を意味する。 施行から8年経つが、コミュニケーションバリア(障壁)の解消に取り組むIGBには、日々、ハラスメントに関する相談が寄せられるという。そこで、実態を把握しようと、働いている聴覚障がい者を対象に、ハラスメントや差別の経験についてアンケート調査を実施した。
■情報が保障されず、キャリアップの問題も
アンケート調査では、聴覚に障がいがある106人から回答を得た。調査の結果、7割が職場でハラスメントや差別の経験があり、そのうち7割が解決に至っていない実態が明らかになった。 特に、上司から怒鳴られたり、暴言や誹謗中傷を受けたりする事例が多く、なかには、暴力を振るわれた人もいる。 このほか、「筆談や手話通訳を断られた」「会議や研修に参加できない」「昇給制度の機会を均等にもらえない」など、情報が保障されないことによるキャリアアップの問題も起きている。 こうした状況を改善しようと、IGBは聴覚障がい者向けの「職場でのハラスメント対策パンフレット」を作成した。ハラスメント対策として、次の4つを挙げる。 1)5W1H(いつ・どこで・だれが・何を・何のために・どのようにしたのか)で、ハラスメント行為を記録する 2)筆談ボードを写真に撮ったり、録音したりするなど、証拠を確保する 3)周囲や社内窓口に相談するなど、職場で申し出る 4)労働局や弁護士など、外部に相談する 最近では、音声認識の技術も進歩し、会議やコミュニケーション手段として、音声認識アプリが活用されるようになってきた。 生まれつき耳が聞こえない当事者でもある伊藤芳浩・IGB理事長は、名古屋大学理学部卒業後、大手電機メーカーで働く。 伊藤理事長は「聴覚障がいの場合、言葉では説明しにくいので、コミュニケーションのずれが生じやすい。期待されている仕事量と、障がい者自身が把握できている内容が異なることもある。小さなずれの積み重ねが、ハラスメントの原因につながってしまう場合もある。ハラスメントを予防するためのヒントとして、聴覚障がい者自身にも、事業者側にもパンフレットを活用してほしい」と話した。