LINKIN PARK、記者会見で語った“再始動” 「また活動するなんて考えられなかった」苦難を乗り越えて
オルタナティヴロックバンドの巨人、LINKIN PARKが7年ぶりに再始動。新しいボーカリストを迎えてレコーディングしたとのニュースが駆け巡ってから4カ月強。それも、女性ボーカリストらしいとの情報にファンは色めきたった。リードシンガーがふたりいるロックバンドは珍しくないが、2017年に他界したチェスター・ベニントンほどのボーカリストを見つけるのはたやすくないはず。ドラムも高校での結成当時から一緒に活動してきたロブ・ボードンから、それまでプロデューサーとして知られていたコリン・ブリトンに交代した。 【画像】旧体制のLINKIN PARK まず、9月5日に「The Emptiness Machine」をドロップし、ハードロックバンド、Dead Saraとして活動していたエミリー・アームストロングを新しいボーカルとして発表。間髪入れず、6日後の9月11日に、地元ロサンゼルスで『LINKIN PARK – FROM ZERO WORLD TOUR 2024』をキックオフした。現在、ニューヨーク、ドイツのハンブルク、イギリスのロンドン、そして韓国のソウル、コロンビアのボゴタを周る再始動ツアーの最中である。そのステージにおけるエミリーのパワフルな歌声がバイラルとなり、新メンバーとしてふさわしいと多くの人が確信する展開に。 韓国公演を翌日に控えた9月27日、オンライン記者会見が催された。時差区分ごとに3回に分けられた記者会見の様子をレポートしよう。メンバー全員で臨んだカンファレンスは終始、和やかな雰囲気。プレス側の参加者も110人以上。まず、新メンバーのエミリーは今回の加入を「Once in a lifetime(一生に一度の大チャンス)」と言い切った。「音楽活動を続けてきて、やはり大規模なことに参加してみたかった」とも。コリンは、「LINKIN PARKのメンバーとは20年以上前からの知り合いだけれど、ずっとインスピレーションを受けてきたからこの幸運を噛みしめている」と話した。また、彼は5人兄弟の長兄だそうで、「初めて兄のような存在ができた」とも言っていた。 レコーディングやリハーサルは昨年から本格的に取り組んでいたそう。「新メンバーの件など、どうやって隠し通せたのか?」とのもっともな質問には、「とくに新メンバーは大変だったと思う。周りの人たちも誠意をもって情報を漏らさないように協力してくれたのはありがたかった」とマイク・シノダ(Vo)。ちなみに、彼は少し鼻声になっているため、念のために別室から参加していた。ツアーには参加していないブラット・デルソン(Gt)からは「母さんの子宮にいるときから、マイクとはメッセージでやり取りしていて……」(注:携帯電話もインターネットもない1977年生まれだ)、ギターのフェニックスからは「哲学科卒の哲学者の視点から言うと……」となかなか凝ったジョークも飛び出した。 DJと映像やアートワークを担当するジョー・ハーンは、「自分たちが持っている感情や創造性を形にする作業」とLINKIN PARKとしての活動の真髄を説明し、マイクは「いまの若い人たちのなかには音楽をハンバーガーや服のような商品(コモディティ)と捉えている人もいるけれど、音楽は創造性のぼやけた、一瞬のきらめきを追いかけて形にするもの」とつけ加えた。会見中、「you guys」と原義では性別を示唆する単語が出てきた際、マイクは「LAの話し方でそのままの意味でない」と断ったうえ、ジェイ・Zとの代表曲「Numb/Encore」のコーラス部分で、〈Can I get an encore? Do you want more?/Cookin’ raw with the Brooklyn boys〉(アンコールをしてくれないか? もっとほしいだろ? ブルックリンの男とドープに盛り上がってみる?)をエミリーも歌うため、リハーサルで「boys」を変えたほうがいいのでは? と話し合ったと説明。エミリーにたいする気遣いと、2024年らしい観点を持っているのが伝わる場面だった。 11月15日にリリースされる新作『From Zero』について。マイクは「とてもエネルギッシュな作品。ある時代のLINKIN PARKではなく、全般的にLINKIN PARKらしいサウンドになった。ギター主体の曲からメロディアスな曲までバラエティに富んでいる」と話した。それが端的にわかるのがすでにリリースされているシングルの「The Emptiness Machine」と「Heavy is The Crown」だ。「再始動はごく自然に取りかかった」(マイク)と言っていたが、フェニックスの「とてもじゃないけど、2019年から2020年まではまた活動するなんて考えられなかった」という言葉に、オリジナルメンバーたちが乗り越えてきた出来事の重さを伝えていた。彼らがデビューした2000年と大きく違うのは、ビッグネームであればあるほど、曲より周辺のノイズばかりに耳を傾ける傾向があること。それを跳ね返せるだけの大物の再出発である。新作を引っ提げてのワールドツアーを含め、楽しみだ。
池城美菜子/Minako Ikeshiro