【ミャンマー】中国車、新モデル攻勢続く 日本車は供給不足で市民目移り
ミャンマーの自動車市場で、日本車と比べて価格が手頃な中国車の人気が高まっている。軍事政権による輸入制限や現地生産の落ち込みで日本ブランドの中古車の流通が低迷する一方、中国勢による「セミノックダウン(SKD)」の現地組み立てモデルや電気自動車(EV)が流入。両者の価格差は広がっている。日本車人気は根強いものの、中国車に目移りしやすい市場構造となっている。【小故島弘善】 最大都市ヤンゴンの自動車販売店の店員は、「需給バランスが崩れて日本車が高騰している」と話す。この店舗では、2008年以降に製造された比較的新しい車両のみを取り扱っているが、日本車だと最も安い小型セダンでも340万円(自国通貨チャットの価格を実勢レートで換算、以下同)以上。現地で人気の高いトヨタ自動車の高級ミニバン「アルファード」は、車齢が20年以上のモデルでも300万円以上で、10年代後半に生産されたものだと1,000万円を優に超える高値が付く。 この店員は、「資産価値があり売買が容易なモデルとしてはアルファードがお薦めだが、在庫はほとんどない」と話した。軍政による輸入制限が影響しているもので、国軍による21年2月のクーデター後に著しく高騰した。人気モデルでスペアパーツも豊富だが、状態の良いモデルの入手は困難だという。 中国系はラインアップが充実する一方だ。軍政の関税免除措置により、比亜迪(BYD)、上海汽車集団(上汽集団、SAIC)の傘下ブランド「MG(名爵)」などのEVが流入。現地で組み立てているとされる新型の内燃機関(ICE)車も出回るようになってきた。 この店員は、「中国系のSKDモデルは販売が好調だ」と説明した。国有自動車大手である北京汽車集団(北汽集団、BAIC)のブランド「BEIJING(北京)」のスポーツタイプ多目的車(SUV)「X7」は入荷すれば確実に売れる状況。中国以外であまり知られていない他のブランドの現地組み立てモデルも続々と市場に供給されている。 同店舗には、中国重汽(シノトラック)によるクロスオーバーSUV「VGV U75プラス」が展示されているが、これも現地組み立ての新車。価格は約800万円となっている。車格が同様の日本ブランドの中古車より数十万円安く、燃費がいいというのがセールスポイントだ。受注生産が基本で、納車まで1~2カ月かかるという。 ■中国車「近代的でかっこいい」 ヤンゴンの街中は日本の中古車であふれるが、ここ数年で新しい中国車も増えてきた。軍政による輸入制限で日本メーカーの事業活動が鈍り、EVシフトや現地組み立ての推進で中国勢の参入が増えたためだ。 中国系の車両が増えている現状について、自動車販売店の店員は「EV以外でもデザインが近代的でかっこよく、車体や内装に高級感がある」との見方を示した。「日本国内向けに製造された日本車」が最も良いとみる傾向は変わっていないものの、需給バランスが逼迫(ひっぱく)して価格が高騰し、庶民には手が出せなくなっているという。 複数の中国ブランドが参入する中、スペアパーツが入手できるか、リセールバリューと呼ばれる売却時の価格がどうなるかなど懸念事項もある。日本車を愛用する男性は、「昔から親しまれているため、日本車は修理や整備で部品がすぐに手に入る。中国系のEVや新たに増えてきたICE車では、アフターサービスが心配だ」と語った。 ただ、東南(福建)汽車工業(東南汽車、SOUEAST)のモデルに乗っている女性は「時間の問題で、いま買わなければ価格がまた上がってしまう」と話す。東南汽車は10年代にヤンゴンに進出し、中古市場でも取り扱われるようになった。部品交換に困ることもないという。 車両価格は需給バランスや対米ドルのチャット相場に左右され、安定しない。チャットの実勢レートは8月、1米ドル=7,000チャット近くと過去最安値をつけたが、ここ数週間は4,300~4,400チャット台で推移。車両価格は乱高下しており、軍政が続く限りは価格上昇が続いていくとみる傾向が強い。