サッカー元代表・山田直輝の「FIRE志向」が進化していた
アスリートでありながら、投資家としての意識を持つ「アスリート投資家」たちに、自らの資産管理や投資経験を語ってもらう連載「 アスリート投資家の流儀 」。約2年半ぶりに登場していただいた、プロ16年目を迎えた33歳のベテランJリーガー・山田直輝選手(湘南ベルマーレ)の2回目です。 2020年のコロナ禍を機に独学で投資を学び、つみたてNISA(少額投資非課税制度)で全世界株式の投資信託を購入。それから長期ビジョンで継続しているという山田選手。妻のNISAと子供たちのジュニアNISAも続けており、堅実かつ強固なベースを築き、引退後にも備えつつあります。 今年7月には34歳になるということで、サッカー選手としてはベテランの領域に達しつつあるのは確か。湘南ベルマーレでもフィールドプレーヤーとしては上から4番目で、J1でプレーする同世代の選手も少なくなるなど、彼自身も危機感を抱きつつあるようです。 「今は湘南のために全力を注ぎたい。毎年、J1残留争いに巻き込まれていますけど、選手個々が持っている力をすべて出し切れば、上位進出も狙えるチームになるはず」と山田選手も強調。今季J1・5試合出場というところから自分自身も存在感を高めていく構えだといいます。そんな山田選手の近年のマネーへの取り組みをさらに深掘りしました。 ■個別株への投資はどうしているのか ――山田選手は円安に危機感を覚えているというお話でしたが、ここ2年間で何か新たなチャレンジはされたのでしょうか。 山田:個別株ではテスラ(TSLA)など有望そうな米国株をいくつか買いつけました。ただ、中田敦彦さんのYouTubeなどでも「個別株で勝つのは難しい」と言っていたので、個別株に関しては余剰資金だけを投じていますし、利益が出れば早めに売ってしまっています。 国内株はほとんどやりませんでしたが、湘南の親会社であるRIZAPグループ(2928)や同じJ1のヴィッセル神戸の親会社である楽天グループ(4755)などは買ったことがあります。それも利益が出た時点ですぐに売却しましたね。 ――個別株を長く保有するという考え方ではないのですね? 山田:そうですね。やっぱり銘柄選定が難しいですし、一生懸命勉強しないといけなくなるので、僕の性に合わないのかなと思っています。「これは有望そうだ」と感じた銘柄だけ少額で買いつけて、お小遣い程度の利益が出ればそれでいいんです。マイナスになったら塩漬けにして、上がるまで待つという形なので、ここまで個別株で損失は出していません。僕のような堅実派はそういうスタイルがいいのかなと感じます。 個別株に関しては「暴落は買い」というメンタルにはなっています。コロナ禍で最初に原油のダブルブルETF(上場投資信託)を買って暴落したときには恐怖しかなかったですけど、あのまま売らずに持っていたら、一体、いくらになっていたんだろう。 僕が買い付けたとき、1バレル=12ドルで、暴落したときはゼロに近いところまで行きましたけど、2024年5月現在では80~90ドルには達してますからね(苦笑)。そういう経験があったから、今後は落ちたときに思い切って買えると思います。 それと、今は国債に関心があります。そういったものも今のうちに勉強して、今後、新たな投資法にもチャレンジできたらいいですね。 ■同じ立場の人から実態を聞くのが一番響く ――ご自身の経験談は選手仲間にとって参考になることばかりでしょうね? 山田:役に立てるのならうれしいですね。2024年1月から新NISAが始まったこともあり、若い選手から「どうしたらいいか」と聞かれることはありました。新NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)がどういったものか、どんなメリットがあるかを教えて、実際にスマートフォンで口座開設するところからサポートした選手もいましたね。 自分で考えてスタートできる人はそんな助けはいらないと思いますけど、やっぱりゼロから1に踏み出すのが一番難しい。それは僕自身もそうでした。税理士さんにアドバイスを受けたし、仕組み債などにも投資したことはありましたけど、まったく身につかなかった。だからこそ、最初の一歩を手助けしてあげることが必要なのかなと感じます。 ――山田選手が投資講座を開いたら、他クラブも含めて数多くの選手が参加しそうですね。 山田:そうかもしれません(笑)。自分がたどってきたマネーや投資の変遷を説明したうえで、口座を開設してもらい、毎月一定額を積み立てるところから始めれば、そこまで難しいことはありませんからね。 投資信託にも米国株型、国内株型などいろんな種類があって、全世界株式のいいところは幅広く分散できるところ。通貨もドル、ユーロ、ポンドなどいろいろあって、今は驚異的な円安水準ですけど、ずっとこの傾向が続くかわからない。今年の秋にアメリカ大統領選挙があって、その結果次第では通貨も大きく変動すると言われていますよね。そういったことも視野に入れると、やっぱりオールカントリーはリスクが一番低い。 僕はそう考えて全世界株式の投資信託に集中的に投資していますけど、別のものを選んでもいい。そういう話をするだけなら、1時間もあれば説明できますよね。やっぱり先輩である僕らが少しでも情報を提供していくことが必要なのかなとも感じます。 ――山田選手がアドバイスした選手が移籍して、他チームの金融リテラシーを引き上げることもありえます。 山田:そういう傾向は実際にあるみたいですね。今年移籍した湘南の後輩に聞いても、「新天地ではあまり投資やマネーの話をする人がいない」という状況らしいので、僕らのようにオープンにディスカッションできる環境は貴重なのかもしれません。何度も言いますけど、やっぱり専門家に説明してもらうより、同じ立場の人から実態を聞くのが一番響きますよね。サッカー選手もマネーに対する意識をもっと高めていくべきだと僕は思います。 ■サッカーに全身全霊を注げるのは50代まで ――山田選手の年齢になると、セカンドキャリアも視野に入れる必要が出てきますが、今後のビジョンはいかがですか。 山田:僕は50~55歳くらいにはFIRE(経済的自立と早期リタイア)を獲得して、子供たちに向けた社会貢献をしながらゆったり暮らしたいので、それまでは死ぬほど働くつもりです。 現役引退後はトップチームの監督を目指すつもりで、今は日本サッカー協会公認B級ライセンスまで取得しています。A級とS級は選手をやめてからでないと取得する時間的余裕が持てないので、おそらく引退後の3~4年で最上位ライセンスを取って、その時点でチャンスを待つ形になるのかなと思います。 トップチーム監督というのはすさまじいプレッシャーにさらされる仕事。1つひとつの試合に勝った負けたでピリピリする日々を強いられていると思います。そういう生活をずっと続けるのは難しい。僕の父(元JSL1部・マツダSCでプレーしていた隆さん)も60代ですけど、体調を崩したりするのを見ていると、サッカーに全身全霊を注げるのは50代までかなという気がします。 そういうライフプランが成立するように、「2億円くらいの資産を4%ずつ取り崩して、毎年800万円が手元に入ってくる」という形を確立させたい。そのためにまだまだ頑張りますよ。 ――最後に今季の目標を聞かせてください。 山田:もちろん湘南を残留させ、1つでも上の順位に行けるように戦うことです。 この前のチームミーティングで「なぜ僕らは毎年、年末だけは強いのか」という話になった。それは崖っぷちに立たされたときにすさまじい闘争心が湧き出た状態で、一体感を持って戦えているからにほかなりません。今季序盤はどこかで「いいサッカーをしよう」という欲が前に出ていたのかなとも感じます。 つねに全員が勝つためだけにプレーできれば、もっと勝ち点を稼げるはず。みんなが答えを見つけたことで、浮上のきっかけをつかみつつあるのは確かです。 僕自身もベテランとしてプロフェッショナルの姿勢を見せたい。山口智監督も「選手同士で言い合え」と口グセのように言っていますけど、そういう厳しい空気も作りたい。たくましい集団になるように仕向けていくつもりです。 エースナンバー10を背負っている以上、山田選手はゴールやアシストといった明確な結果を残さなければなりません。近年はスーパーサブ的な起用も増えていますが、同い年のヴィッセル神戸・大迫勇也選手が昨季のJ1で22ゴールを上げ、MVPに輝いたのを見れば、まだまだ数字を引き上げられるはず。湘南の救世主としてまばゆいばかりの輝きを放つ山田選手の一挙手一投足を待ちわびるとともに、Jリーガー投資家としても異彩を放ってほしいものです。 元川 悦子(もとかわ・えつこ)/サッカージャーナリスト。1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、1994年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。著書に『U-22』(小学館)、『初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅』『「いじらない」育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(ともにNHK出版)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)ほか。 ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
元川 悦子