2024年2月の「雇用調整助成金」不正受給76件、公表累計は1,040件、不正受給額は311億円に
業歴浅い新興企業に偏り、10年未満が4割
TSR企業データベースに登録された776社について、創業年月または設立年月から起算した公表月までの“業歴”では、最多が10年以上50年未満の350社(構成比45.1%)だった。 次いで、5年以上10年未満203社(同26.1%)、5年未満115社(同14.8%)、50年以上100年未満90社(同11.5%)、100年以上18社(同2.3%)の順。 業歴10年未満は318社(同40.9%)と4割を占めた。このうち、38社は雇調金の特例措置がスタートした2020年4月以降の設立(創業)だった。精緻な事業計画や資金手当てが出来ないままの設立で、コロナ禍の業績不振から不正に手を染めたとみられる。
コロナ禍の営業自粛や人流抑制などによる業績悪化に直面し、従業員の雇用を維持するため、中小企業から上場企業まで多くの企業が雇調金を活用した。特に、対面型サービス業や労働集約型産業などで雇用下支えの効果が大きかった。 ただ、コロナ禍でのスピーディーな支給に向けた申請書類の省略などの手続き簡素化に伴い、申請の過誤や不正受給も頻発した。厚生労働省によると、各都道府県労働局の遡及調査で発覚した不正受給は、2024年12月末で2,666件、支給決定取消金額は約532億5,000万円に及ぶ。 このうち、延滞金等も含めた回収済額は約370億9,000万円で、約161億6,000万円が未回収となっている。雇調金等の主な財源は、企業が負担する雇用保険料を積み立てた「雇用安定資金」で賄われており、公平性の観点から不正受給には徹底した追及が求められる。 不正受給案件では、支給決定の取消金額が100万円以上、また悪質と判断されたケースは社名や代表者名、受給金額等が公表される。特に、悪質な場合は代表者など個人も対象とした刑事告訴もあり得る。不正受給金額が最大の水戸京成百貨店(2023年2月公表、10億7,383万円)では2024年1月、不正受給を主導した疑いで元社長が茨城県警に詐欺容疑で逮捕されている。 刑事告訴まで至らなくても、不正が公表された企業はコンプライアンス(法令遵守)違反で信用が失墜し、レピュテーションリスクに晒される可能性もある。さらに、受給金額に違約金と延滞金を加えた返還を求められ、雇用関係助成金の受給も5年間制限されるため、資金繰りへの影響も小さくない。 厳正な制度運用と公正さの維持のため、今後の公表件数の動向が注目される。