卵と牛乳を使わない100%植物性のパン 地球にやさしい“アルティザン” 転換期となった渡仏での経験とは
全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年6月3日号にはメゾン ランドゥメンヌ ジャポン ランドゥメンヌグループオーナー シェフブーランジェール 石川芳美さんが登場した。 【写真特集】大物がズラリ!AERA表紙はこちら * * * 店頭に並ぶメロンパンのポップには、100%植物性を表す「PLANT BASED」(プラントベース)のマークが印字されている。卵と牛乳は不使用にもかかわらず、味は“ちゃんと”メロンパンだ。 「地球環境に配慮したラインアップも揃え、お客様に選ぶチャンスを与えることは今の時代に不可欠だと思います。比較してもらいやすいよう馴染みある商品にしました」 動物性の材料を使わないことで、生産過程で温室効果ガスを排出させない。そんなカーボンフリーのパンの開発だけでなく、食品ロス防止に売れ残ったパンを冷凍保存して全国配送したり、それでも残ったパンを自家製ピューレにして新たな生地に練り込んだりして販売している。 2020年には、フランス初の100%プラントベースのブーランジェリーパティスリー「LAND&MONKEYS」を開店。環境意識の高い地元民に支持され、現在5店舗を展開している。 パン作りの本質とは何か。それを理解したのは、30代半ばで渡仏後、1年目に働いた店のオーナーシェフに質問を投げかけられた時だった。 「ルヴァンリキッド(液状の酵母)3リットルを目分量でミキサーに入れてごらん」 日本で10年パン職人として経験を積んだが、その質問の意図が理解できなかった。 「これまで材料を細かく計算し、頭でパンを作っていたことにハッとさせられました。感性の部分が欠落していたんです。パンは目と心で作ると教わった経験が、職人としての転換期になりました」
それからは、五感で作る方向に変わっていった。例えば小麦粉一つにしても、品種によって水を吸い込む量が異なる。そうした材料の本質を知れば、国産の小麦粉と水を使っても、本場フランスのパンと遜色ない味や食感を、日本でも作ることができる。 食材の高騰が続く中、材料を厳選し、技術力を駆使して美味しさを追求し続ける。 「それができるのが『アルティザン』(職人)でしょうね。私、ここまでに33年かかっていますから」と笑う。 「今後の展望の一つは、食文化に新しい風を入れること。まずはアジアを中心に、地球環境に配慮した考え方を啓蒙しているところです」 その信念と使命感を持ち、今日も国内外を飛び回る。(フリーランス記者・小野ヒデコ) ※AERA 2024年6月3日号
小野ヒデコ