室戸台風の〝悲劇〟語り継ぐ 校舎倒壊で児童助け殉職、吉岡藤子さん没後90年【宇部】
母校・厚南小でも教訓学ぶ
台風シーズンの9月、災害への備えとともに忘れてはならない人がいる。1934(昭和9)年、関西を中心に甚大な被害をもたらした室戸台風で、倒壊した大阪府内の学校の校舎から児童6人をかばって殉職した宇部市(旧厚南村)出身の教師(訓導)、吉岡藤子さんだ。21日はその吉岡さんの没後90年に当たる。 吉岡さんが勤務していた現吹田市の豊津尋常高等小学校(現豊津第1小)では、校舎が台風の強風で倒れ、51人の子どもが犠牲となった。吉岡さんは教え子たちを守りながら、27歳で命を落とした。同僚の横山仁和子さんも同様に亡くなった。 悲劇的な死は全国的に反響を呼び、銅像が建てられ、浪曲の題材にもなった。古里では准村葬が営まれた。 吉岡さんは07年の生まれで、厚南尋常高等小学校(現厚南小)の卒業生。幼くして父親を亡くし、工場に働きに出るなどして教師になった。結婚したがすぐに夫と死別。一人娘を抱えて再び働くなど、苦労を重ねた生涯だった。 現地では、今もこの悲惨な出来事を語り継いでいる。豊津第1小は9月21日を「風災記念日」として、全校児童が参加する集会を毎年開き、台風の恐ろしさを改めて学ぶ日としている。 今年は21日が休みのため、18日の集会で室戸台風に関する講話があった。さらに同日から3日間、校長室にある犠牲者の祭壇を部屋の入り口に移し、児童が休み時間などに追悼できるようにした。壇上には両教師の遺影を並べた。 母校の厚南小(藤中俊臣校長)には運動場入り口に記念碑が立っている。富山県出身の彫刻家、岩城信嘉さんが86年に制作したもの。吉岡さんの生涯に感銘を受けた北海道の篤志家が寄贈した。 光を当てる取り組みもある。今年度創立150周年の同校では、それを記念して6年生が班に分かれて同校の歴史などを調べている。その中で、9人が吉岡さんについて学んでいる最中だ。成果は11月1日の開校記念式典と校内スタンプラリーを通じて、出席者らに伝える予定となっている。 山本湊祐君は「校内に石碑があるので、何をした人なのか気になっていた。先輩にすごい人がいたんだなと思った。吉岡先生について学んだことを、みんなに分かりやすく伝えられるよう頑張りたい」と学びを深めている。