トランプ、金正恩、そして「5歳」の尹錫悦
[ハンギョレS]地政学の風景 ウェルカム・トゥ・トランプ2.0 「米国の覇権をただで維持」トランプ主義 欧米の亀裂でBRICS、多極化浮上 ウクライナ戦争では北朝鮮が最大の恩恵 朝米の直接取引、尹政権にとって「カモ」になる可能性も
ドナルド・トランプの新世界へようこそ。 米国のトランプ次期大統領が、ネオコンからトランプ主義者に転向したマルコ・ルビオ上院議員とマイケル・ウォルツ下院議員を国務長官と国家安全保障担当補佐官に、「どこの馬の骨とも知れない」放送司会者のピート・ヘグセスを国防長官に、反戦平和主義系のトゥルシ・ギャバードを国家情報長官に、ワクチン陰謀論者のロバート・ケネディ・ジュニアを厚生長官に、未成年と性的関係を持った疑いが持たれているマット・ゲーツを司法長官に指名しました。ごった煮人事ですが、共通点はトランプ主義者であることです。では、トランプ主義とは果たしてどのようなものなのでしょうか。 ごった煮人事が示すように、トランプ主義はごった煮主義です。取引主義、孤立主義、ポピュリズム、保護主義、権威主義、変人戦術、現実主義、軍事力優先主義、厭戦(えんせん)主義、力による平和、後見主義などのごった煮です。しかし、その意図は一つに帰結します。米国の覇権をコストをかけずに維持するということです。 ■北朝鮮、核武力と朝ロ同盟をいずれも手中に 第2次世界大戦以来、米国は国際秩序を設計し、維持してきた覇権国家です。覇権の維持は恩恵にもあずかれますが、コストもかかります。例えば、米国にとって軍事力とドルは国益を得る道具ですが、同盟国の安保や経済、海路の保護などの国際秩序の維持のために投入されます。韓国は米軍駐留で安保を得るとともに、米国の援助と開放された米国市場への進出が経済成長に大きく役立ちました。トランプの米国は、もはやそのようなコストはかけないということです。韓国は米軍の駐留コストを支払い、米国市場に進出する際には高率の関税を納め、韓国市場を米国に開放するということです。米国の覇権の道具である軍事力とドルを他国のために投入するのではなく、他国にそのコストを負担させるということです。 トランプが主張し続けてきたウクライナ戦争の終息は、その試金石です。この戦争は米国などの西側とロシアの勢力圏戦争です。米国が主導してきたNATOの拡大と、「ウクライナは自分たちの前庭」だというロシアが衝突したのです。米国は自由と主権を名目にこれまでに1千億ドル以上をウクライナに支援してきました。しかしトランプは、ウクライナは欧州の問題だとして、その支援を打ち切って戦争を終わらせると述べています。 トランプがこの戦争に懐疑的なのは、米国の覇権にとってより脅威である中国との対決に集中したいためでもあります。第1次トランプ政権が発足した際には、プーチンに個人的な好感を示したトランプはロシアとの関係を改善し、「反中、米ロ協力体制」を構築するだろう、との分析も存在しました。ロシアの米国大統領選挙への介入をめぐる問題などで両国関係の改善は実現せず、バイデン政権下でのウクライナ戦争で両国は不具戴天の敵となりました。 この戦争によって、米国が主導していた国際秩序に大きな亀裂が生じました。中国とロシアの戦略的連帯が固まり、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)という非西側の集まりが大きくなりました。中ロは、米国主導の一極秩序である自由主義的な国際秩序に代わる多極化秩序の構築を狙っています。とりわけロシアと北朝鮮は「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結し、西側に対抗する強固な同盟関係を結びました。このところ波紋を呼んでいるウクライナ戦争への「北朝鮮軍の派兵」が代表的な例です。 トランプの就任を前後して終戦交渉が具体化し、米国とロシアは膝を突き合わせるでしょう。両国関係に変化が起こることが予想されます。ロシアは中国との連帯を放棄することはないでしょうが、トランプの米国ともうまくやっていこうとするでしょう。ロシアは米中ロ関係において、一種のバランサーの役割を模索しようとするかもしれません。 ロシアとの強固な同盟関係に入った北朝鮮は、最大の恩恵を受けています。北朝鮮はすでにこの戦争を契機として、社会主義圏崩壊以降で最も有利な地政学的地位を固めています。ハノイでの朝米首脳会談の破綻後、米国との関係改善をあきらめ、核武力の増強へと突っ走ってきた北朝鮮は、この戦争によって中ロが主導しようとしている多極化空間へと組み込まれました。西側の制裁に対抗するロシアと中国が協力して西側と断絶した経済エコシステムを構築していた中、北朝鮮は朝ロ条約によって心強い後ろ盾を得ました。北朝鮮は片手には核武力を、もう片方の手にはロシアなどとの経済協力を手にしました。国連安全保障理事会(安保理)の常任理事国であるロシアが、北朝鮮に対する制裁を無力化しているのです。 ■尹錫悦の「即強終、価値観連帯」の破局 トランプは北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長を称賛しつつ、関係改善を示唆しました。ウクライナの終戦が実現すれば、トランプがロシアを介して金正恩と接触することも予想されます。北朝鮮は米国との関係において、もはや「下の立場」ではありません。北朝鮮は米国と同等の立場として対話しようとするでしょう。こうした朝米の関係が、北朝鮮の要求する条件を高めて交渉を困難にするのか、あるいは双方が現実的な姿勢を取って順調に事が進むのかは未知数です。 金正恩の北朝鮮は、韓国とは付き合わないという、韓国と北朝鮮は敵対的な二つの国家だという「二つの国家体制」を公式のものとしました。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は北朝鮮にビラを飛ばしており、「即強終(即時、強力に、最後まで報復)を叫ぶ対決主義で突っ走っています。ロシアとの関係は破綻しています。尹政権のこうした対決への暴走は、バイデンの「価値観連帯」にすべてを賭けたせいでもあります。ところが今や尹政権は、そんな価値観連帯なぞ犬にでも食わせろというトランプと向き合わなければなりません。尹政権抜きで北朝鮮と直接取引したり、あるいはそうするぞと脅してきたりすることもありえます。支持率が地をはう尹錫悦大統領に、そのようなトランプと交渉する力があるのでしょうか。在韓米軍の駐留コスト、市場開放問題などで身ぐるみはがされるのではないでしょうか。東アジアの激変する地政学において、韓国は金はむしり取られるうえ、迷子になるのではないでしょうか。 近ごろ話題の政治ブローカーのミョン・テギュンは、尹大統領についてこう語っています。「5歳児が銃を持っている。そうなると自分も、親も、他人も殺しうる。大統領は政治をやったことがない。5歳の幼子が今、銃を持っているようなものだ」。みなさんはどう思われますか。 あらためて、トランプの新世界へようこそ。そして、その世界でトランプに会うと言いながらゴルフクラブを振り回すカモの端役で出演する尹錫悦も応援してやってください。 チョン・ウィギル|国際部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )