【故・山本文緒さん】VERY独占インタビュー『自転しながら公転する』ドラマ化記念|VERY
2021年に急逝した直木賞作家の山本文緒さん。現在、生前最後の長編小説『自転しながら公転する』がテレビドラマ化され話題を呼んでいます。小説発表時には「家事も育児も仕事も、それから親の介護、自分の老後の始末も……」とやらなきゃいけないことを山ほど抱えて戸惑うVERY世代に向けメッセージをいただきました。ドラマ化に際し、当時のインタビューを特別公開します。
【PROFILE】山本文緒さん(やまもと・ふみお) 1962年神奈川県生まれ。会社員生活を経て作家デビュー。1999年『恋愛中毒』で吉川英治文学新人賞、2001年『プラナリア』で直木賞を受賞。2003年、うつ病を発症。前年に再婚した夫に支えられながら闘病、2007年に『再婚生活』で復帰。その後、『自転しながら公転する』刊行翌年の2021年に膵臓がんにより急逝。『なぎさ』『ばにらさま』他、今も多くの読者に愛される著書多数。
その悩みは、もしかしたら「時代のせい」なのかもしれない
──主人公の都が仕事や恋愛、親との関係に悩む姿に感情移入する読者が多そうですが、物語にある仕掛けがあって、エピローグまで読むと新たな驚きが。もう一度読み返してみたくなる小説です。 あらすじだけを言えば、「非正規雇用で働くお金のない二人の恋物語」ではありますが、話の中で「時代の価値観の推移」も描きたかったんです。仕事、恋愛、親の介護問題……都はいつも悩んでばかりいる女性です。「彼女の気持ちがよくわかる」という感想をたくさんいただくとともに「悩んでばかりで自分勝手な都にイライラする」「主人公のことが大嫌い」という方もけっこういるんですよ(笑)。都が自分を取り巻く人間関係や仕事のことで悩んでいるのは確かなのですが、単に個人の問題ではなくて、実は「今の時代に言わされている」「個人的な悩みだと思わされている」部分があるということ。500ページ弱の長編になりましたが、刻一刻と価値観が推移していくさまを長いスパンで表現したかったんです。 ──二人は結ばれるのか、都の悩みは解決するのか、と先が気になって、読み進めるうちに、いつのまにか自分の価値観も揺さぶられ……。 読後、ただモヤモヤと悩んでしまうような本にはしたくなかったんです。寝転びながら読んで「ああ面白かった」と思ってもらいたかった。いままでは物語の結末は読者の方の想像にゆだねることが多かったのですが、時代の変化を描く中、日本の経済も、都の働くアパレル業界も先細りとなることが予想される中、たとえば正社員になっても、結婚がかなってもその先の人生がずっと安泰とは限らない。物語の中では「都のその後」も書いています。