玉鷲「すごく緊張した」通算連続出場記録がかかった大一番を回顧、40歳を超え新境地へ
元関脇青葉城が持っていた通算連続出場記録(1630回)を塗り替え、大相撲に新たな記録を打ち立てた玉鷲。特別なスポーツ経験が無いまま19歳で相撲を始めたという、異色の経歴を持つ。16日に40歳の誕生日を迎えたばかり。そんな玉鷲のTHE CHANGEとは──。【第1回/全5回】 ■【画像】通算連続出場記録を更新中の玉鷲、塵手水を切る凛々しい姿 大相撲秋場所3日目。 東前頭11枚目、39歳の玉鷲は大きな記録に挑もうとしていた。 前日の2日目、初土俵(2004年初場所)以来無休の連続出場記録を歴代1位タイとした。この日、土俵に上がれば1631回となり、歴代単独1位となる。 対戦相手は、かつて玉鷲の付け人を務めたこともある、高田川部屋の輝。 注目の一番は、立ち合いから、得意の突き押し相撲で、玉鷲が10歳年下の輝を圧倒した。 「玉鷲~」 行司の声が響く。 新記録樹立の瞬間、両国国技館を埋め尽くした満員の観客から、温かい拍手と歓声が送られる。 「大きな一番、すごく緊張した。まるで優勝したみたいな気分です」 支度部屋に戻って、こう振り返った玉鷲。 力士の通算連続出場記録は、長く、かつ、病気やケガに襲われても、丈夫にコツコツと努力を積み重ねてきた力士の「勲章」でもある。 ちなみに、2位の青葉城(関脇=元・不知火親方)3位の富士櫻(関脇=元・中村親方)は37歳まで、5位の高見山(関脇=元・東関親方)、7位の寺尾(関脇・元・錣山親方)が39歳まで現役を務め、4位の貴闘力も34歳11カ月で引退するなど、「鉄人」と称される力士たちが、歴代メンバーに名を連ねている。青葉城以外は、玉鷲同様、相手と離れて取る、突き押し相撲が得意な力士が多いことも興味深い。 「(相撲内容に関しては)『前に出る』ことを大切にしています。皆さんの支えでここまで来ることができた。自分だけの力じゃないですよ。皆さんの力です」
うれしかった後輩力士たちからの言葉
周囲への感謝の言葉を述べる玉鷲。 「自分は、連続出場などの記録にはこだわらないほうなんです。なぜかって、数字は目標じゃないと思っているから……。 でも、(連続出場記録)歴代1位の可能性が見えてきた2年前くらいから、メディアの人たちには毎場所その話を振られて、特にこの1年間は見えない圧力がかかっていたんですよ。 一番うれしかったのは、『レジェンド!』と後輩力士たちから言ってもらったこと。やっぱり、同じ職場の人たち、仲間からそう言われるのは、本当にうれしい。以前、40歳まで現役力士だったモンゴルの大先輩・旭天鵬関(現・大島親方)のことを、(敬意を込めて)『おじいさん』なんて呼んでいたこともあったけど、自分もその域まで来ちゃったんだなぁ(笑)」 玉鷲はこう言って微笑む。 秋場所は14日目を終えて、7勝7敗の五分。千秋楽は、輝と同じ高田川部屋所属の竜電との対戦になった。力士数が少ない片男波部屋所属の玉鷲は、かつて稽古相手を求めて、足しげく高田川部屋へ出稽古に通っていた。いわば、「手の内」を知っている力士同士の一戦だったのだが、玉鷲は竜電に叩き込まれて、勝ち越しを逃してしまう。 「今年は3月の春場所からずっと7勝8敗(の負け越し)が続いていたから(笑)、どうにか勝ち越して終わりたかったけれど、相手も必死。自分の力は出し尽くしたので……」 秋場所を皆勤して、通算1643回となった通算出場回数は、九州場所の土俵でさらなる高みへ向かっていくこととなった。 (つづく) 玉鷲 一朗(たまわし いちろう) 1984年11月16日生まれ、モンゴル・ウランバートル市出身。片男波部屋所属の現役大相撲力士。2024年の秋場所で大相撲の通算連続出場回数、歴代1位の記録を更新。スポーツ経験が特に無いまま19歳で相撲を始め、30代から力を付けたという、同世代のモンゴル人力士の中でも異色の経歴を持つ。身長189cm、体重178kg。血液型はAB型。最高位は東関脇。趣味は小物、菓子作り、人間観察。 武田葉月
武田葉月