37歳で米挑戦も即解雇「お前は年を取りすぎ」 長距離移動、飲み物だけで試合へ…過酷すぎた生活
生活面でも驚き「『何だこいつ』と思ったら無視」
興行としての考え方の違いも、渡辺氏らしい分析をしていた。「こっち(選手)都合じゃないですよね。日本のプロ野球だったらたぶん、試合開始を遅らせるんじゃないかな。もうお客さんも集まってるし、相手も準備できてるから、お前(先発投手)が行けるなら行くぞって。独立リーグだからかもしれないけど、優先順位がどこにあるかということ。イヤなら無理だと言うしかないし、中には、それじゃオレ投げないって言っちゃう選手もいます。逆に『行ける行ける』っていう人もいる。そういう環境に対してどれだけ対応できるかが求められる」。 野球以上に、実生活ではさらなる驚きが待っていた。住んでいた場所は田舎町でアジア人がほとんど住んでおらず、アーミッシュ(移民としてアメリカにやって来た当時の暮らしを維持し、自給自足で生活している人々)が多かった。 初めて入った地元のバーでビールを頼んでもなかなか出てこない。見かねたチームメートがバーテンダーに声をかけてくれて、ようやくビールにありつけた。何度か似たような経験を重ね、原因が服装だと分かった。当初はTシャツにダメージジーンズという服装だったが、襟付きのシャツとスラックスに変更したという。「日本ならそういうことはあまりないですよね。でも彼らは、誰に対しても平等にサービスするなんていう考え方はない。『何だこいつ』と思ったら無視です。アメリカ人の思う“ちゃんとしてそうな格好”にしてみたら、それなりに対応してくれるようになりましたよ」。 現地ではホストファミリーの元に暮らしていたが、人種的な偏見のない家庭で恵まれていた。以前に台湾人の選手を短期で引き受けた経験もあり、日本人が来ると聞いて真っ先に手を挙げたという家庭だ。それでも最初は緊張した。「日本人は特に礼儀正しいと聞いている、と言われたので、最初はめちゃくちゃ礼儀正しくしていましたよ」。 ランカスターでの生活はおおむね楽しめたようだ。「冷たさと温かさと、日本人の感覚からすると両方を感じる機会がありました。僕はランカスターのあたりで関わった人たちは、みんな好きでした。ちょうど良い距離感で。いまだにたまに連絡とったりしていますよ」。もちろん、渡辺氏自身の性格の良さや懐の深さもあってのことだろう。
伊村弘真 / Hiromasa Imura