“リーク問題”への毅然とした対応は、業界の悪しきトレンドを変えられるのか 『モンスト』騒動から考える
MIXIが配信するモバイル向けゲームアプリ『モンスターストライク』がリーク騒動に巻き込まれている。 【画像】リークの対象となってしまった『モンスト』11周年キャンペーン情報 昨今、業界で悪しきトレンドとなりつつあるリーク。このような行為に対して、メーカーは何ができるだろうか。『モンスターストライク』のリーク騒動から、業界のあり方を考えていく。 ■コラボ内容を言い当てるコメントがコミュニティ全体で話題に 事の発端は、『モンスターストライク』を専門に扱うゲーム系YouTuberが2024年7月に投稿したコラボ予想動画に対する、ある視聴者の言動だ。彼はそのコメント欄において、7月中旬から10月までに開催される予定となっていた同タイトルのコラボイベントの内容に言及。作品名やキャラクター名、イベントの概要といった未発表の情報について、さも自身が把握しているかのように書き残していた。当初は聞き流すユーザーも少なくなかったが、やがて噂だけがひとり歩きを始めると、界隈では「正しいリーク情報」であると話題に。その後、ひとつずつ公式情報が明らかとなるたび、すべて的中している状況に、さらに注目が集まっていった形だ(※)。 ※2024年10月時点で、当該コメントは削除されている。 動画のネタとなったことからもわかるとおり、『モンスターストライク』のユーザーにとって、コラボイベントまわりの情報は、公式発表が待ち望まれているもののひとつである。そのため、意図しないタイミング/場所から、意図しない形で漏れ出てきた情報とその発信者には、非難の声も上がっていた。 一連の動向を受け、発売元のMIXIは10月1日、『モンスターストライク』公式サイトにて「未発表情報に関するリーク行為について」という声明を出している。このなかで同社は、ユーザーや関係者にお詫びするとともに、原因について徹底的に調査し、厳正な対応を行っていくと明らかにした。 ■リークに対し、メーカーやユーザーを含む業界全体ができることは ゲーム業界を巡っては昨今、SNSの浸透にともない、リークを目の当たりにする機会が増えてきている。たとえば、『東京ゲームショウ』などに代表される見本市では、満を持してお披露目となる予定だった目玉の情報が早くから漏洩し、開幕するころにはすっかり界隈の周知の事実となってしまうケースも少なくない。こうした事例が何度も積み重なっていることから、(関係者の数が増えやすく、情報を機密としづらい)見本市は、リークのリスクが高い場とも認識されつつある。 また、個別のタイトルというレベルの話では、アップデート情報などが、なかば日常的にリークされている実態もある。正直なところ、今回の『モンスターストライク』のようなケースにまったく特別感はない。もはやリークされないほうが珍しいと言っても過言ではない現状だ。 その意味において、今回のMIXIの対応は、我慢の限界を超えてしまったからこそであるとも言える。早くからコミュニティで話題となっていたにもかかわらず、このタイミングで声明を発したのは、対象となった情報が解禁となる前では真偽に言及しづらい側面があったからだろう。この手のリークは真実をとらえている場合が多く、そのことが結果的に、“なかったもの”として扱うという公式の“泣き寝入り”的対応へとつながってしまっている。 業界を脅かすリークのトレンドに対し、各メーカーはどのような対策を講じられるだろうか。結論として、ハードやソフトの企画/開発、タイトルの発売/運営などに人が関わっていく以上は、そのリスクをゼロにすることはできない。仮に情報を共有する関係者の範囲を最小限にとどめていたとしても、彼らの規範意識にほころびがあれば、このような騒動はなくならないだろう。ここには、そうした情報に“過剰に”反応してしまう受け手側の問題もある。リークは承認欲や自己顕示欲をこじらせた結果の行動とも言えるだけに、信憑性が担保されていない情報に踊らされない心持ちが、結果的にそうした行為を減らすことにもつながるはずだ。 業界における直近最大のイベントと言っても過言ではないNintendo Switch後継機の発表/発売では現在のところ、致命的な情報漏洩が見受けられないように思う。小さなリークが繰り返されるなかでも、そのような印象を私が受けているのは、任天堂が“知らんぷり”を続けていること、(確度の低そうな情報が多く出回ることで)ユーザーに耐性ができつつあることが影響しているのではないだろうか。もしかすると、任天堂が極端な情報統制を行っている結果という可能性もある。 その一方で、メディアの役割は、こうした情報統制と関係性が深いものでもある。たとえば、ライターである私はこれまで、仕事の一環として、何度もメーカーから未発表の情報を受け取ってきた。裏を返せば、ことマーケティングの面においては、見本市の例を含め、メディア側に属する不特定多数の人間との関係性が切っても切り離せないのが、ゲーム業界なのである。であるだけになお、上述した関係者の規範意識、受け手の揺るぎない姿勢は、リークに強い業界形成のための重要なパーツとなるに違いない。 MIXIの毅然とした対応は、業界の“前例”となっていく可能性がある。良い結果へとつながれば、こうした足跡が抑止力として働く未来もあるのではないか。拡大を続けているゲーム市場であるだけに、このような行為によって発展が妨げられていることは大きな損失である。MIXIの行動が悪しきトレンドに一石を投じるような結果につながることを期待したい。
結木千尋