仙台育英“じつはドン底だった”今の世代…主将の胸中「イライラすることが多く」甲子園で優勝、準優勝…最強メンバー“1つ下”の苦悩
あの大歓声…慶応戦の記憶
鈴木も湯浅、登藤とともに昨夏の甲子園で先発出場したメンバーである。準決勝まで2本塁打と持ち前の長打力を発揮したものの、慶應義塾との決勝戦は3打席3三振。左翼守備でもミスがあり、途中交代している。鈴木は当時を「甲子園が慶應のイケイケムードになって、試合に入りきれなかったのかな……」と悔やむ。 須江監督が昨年の時点で「彼の持っているものは、ウチの選手のなかで頭ひとつふたつ違う」と評したように、鈴木の打撃力は仙台育英の大きな武器になるはずだ。チームとしても例年以上にフィジカル強化に励んだこともあり、須江監督は「新基準バットになっても、昨年のチームと比べて長打が減った印象はありません」と打線への自信を口にする。 鈴木は夏に向けて、こんな思いを語っている。 「昨年は先輩に甲子園決勝まで連れていってもらったのに、恩返しできませんでした。今年は結果で、先輩の分まで恩返ししたいんです」 6月14日から春季東北大会が開幕する。その1戦1戦が、公式戦経験の少ない今年の仙台育英にとって血となり、肉となっていく。 そして、仙台育英にとって「最後のピース」が帰ってくる。骨折で離脱した佐々木が驚異的な回復を見せているのだ。 「骨折した瞬間は『終わったな』と思いました。最初に行った救急外来では『全治3カ月』と診断されて……。でも、チームでお世話になっているPT(理学療法士)の方に名医を紹介いただいて、手術で骨をピッタリきれいにつけてもらえたんです」 手術後は順調にリハビリをこなしており、早ければ東北大会から復帰できる見込みだ。今春にブレイクした山口、昨夏の甲子園マウンドを経験した左腕の武藤陽世、2年生ながら県大会で安定した投球を見せた左腕の吉川陽大。そこへ佐々木が戻ってくれば、全国でも十分に戦える戦力になる。
「今年はカメみたいなチームです」
須江監督はこんな見通しを語っている。 「今年はカメみたいなチームです。ゆっくりとひとつひとつのことをクリアしながら、一歩一歩進んできました。(今春のセンバツで優勝した)健大高崎さんなど先頭集団ははるか前方にいて、まだ背中は見えてきませんが、7月頭にはおぼろげながら背中が見えてくるんじゃないかと思います」 苦しみ抜いた湯浅は、夏に向けてこんな決意を口にする。 「自分たちのように秋に公式戦を5試合しかやっていないチームが、夏の日本一になるなんてなかなかないと思うんです。健大高崎とか報徳学園とか強いチームを倒して、もう1回、甲子園で優勝したいですね」 甲子園の決勝まで勝ち進んだ過去2年の仙台育英は、たしかに魅力的なチームだった。だが、今年の仙台育英だって負けてはいない。 カメの歩みで、頂点へ――。機は熟しつつある。
(「甲子園の風」菊地高弘 = 文)
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