錦織圭、念願のトップ10入りが意味するもの
大きな目標だったトップ10入りをついに果たした錦織圭。マドリッド・マスターズで準決勝進出を決めると同時に世界ランキング10位が確定し、翌日ダビド・フェレールを破って自身初のマスターズシリーズ決勝進出を果たすと、それを9位へとさらに上げた。錦織が「目標トップ10入り」と公言し始めたのは、20位を切った一昨年初めの頃だっただろうか。以来、メディアは本人以上に「トップ10」を言い続けてきた。だから、トップ10になれば待遇や賞金が格段に良くなると思い込んでいる人もいるようだが、少なくとも賞金はランキングと無関係である。待遇に関しては、トップ10の肩書きとともに、スポンサーが増えたり契約金が上がったり、あるいはマネージメント会社にとっては出場条件の交渉が有利になったり、という利点はあると予想される。ただ、スポンサー契約はランキングだけでなくイメージが重要だし、出場交渉の駆け引きはその国での人気が大きく関わる。トップ10になった途端にこうなるという決まりはない。 むしろ、テニスの世界で本当に大きな意味を持つ数字は「8」だ。シーズン最後のツアーファイナルに出場できるのは年間ランキングの上位8人。また、8位になればグランドスラムで確実に上位8シードの中に入るため、少なくとも準々決勝までは格上と対戦しなくていいが、第9シードでは順当なら4回戦から格上と対戦することになる。ただし、細かいことを言うなら、第9~12シードの山にはそれぞれ第5~8シードのどれかが入るので、上位4シードにはまだ当たらない。そこに入るのは第13~16シードである。 この見方なら9位も12位も同じということになるが、「目標はトップ12です」などと言う選手はおらず、恐らく彼らはこんなドローのからくりなどチマチマと考えてはいないのである。そんな小さな話ではなく、トップ10にはもっと普遍的なステータスがあると考えたほうがいい。錦織が18歳でセンセーショナルな初優勝を遂げたときの決勝の相手ジェームズ・ブレークは当時12位だったが、過去4位を最高に、2年近くトップ10を守っていた選手だ。そのブレークがその後いつだったか冗談まじりに、「ブラデントンでは、トップ10になれば上半身裸で練習してもいいという暗黙のルールがあるんだ(笑)」と話したことがある。ブラデントンというのは錦織が拠点とするIMGアカデミーもあるところで、テニス選手の住まいも多い。実際にそんな不文律があるのかどうか……錦織はこれまでも大会会場では“トップレス”で練習していることがよくあったので、「暗黙のルール」とは大げさかもしれない。だが、選手同士の間でも「トップ10」がいかに特別な存在であるかということ、たとえ裸になっても下品でない風格が求められるということまでも表した、実に深い(?)話だと感心したものだ。