宇宙でも活用が進むプラスチックパッケージ、TIが主導した新規格「QML Class P」とは?
重量の面では、当然プラスチックパッケージの方が有利だ。サイズは、セラミックパッケージだと内部に空洞があるため、その分、どうしても大きくなってしまう。封止で製造するプラスチックパッケージの方が、コンパクトにできる。 その後、材料の工夫により、アウトガスを抑えたプラスチックができてくると、主に地球低軌道(LEO)の衛星から、プラスチックパッケージが使われ始めるようになった。ちなみにアウトガスについては、質量損失比(TML)で1%未満、再凝縮物質量比(CVCM)で0.1%未満というNASA(米国航空宇宙局)の要求があり、これが基準となっている。 アウトガス試験については、JAXAのWEBサイトにも記載がある 参考:宇宙用有機材料アウトガスデータ集(第1章) しかし従来、宇宙用セラミックパッケージ向けの規格はあったが、プラスチックパッケージ向けの規格は無かった。バジェ氏はこれについて、「規格が無いため、半導体メーカーごとに手法が違っていた」と問題点を指摘。今回、新規格が制定され、「宇宙で使うときのリスクを数値化し、検証できるようになった」という。 ■規格の制定により活用は深宇宙へ TIは宇宙用の半導体製品として、現在、5種類のラインナップを提供している。最も古くからあるのは、セラミックパッケージ向けの規格である「QML Class V」(QML-V)の製品で、これは登場以来、数十年の長きにわたって使われてきた。次に登場したのは、FPGA向けに制定された「QML Class Y」(QML-Y)の製品だ。
しかし近年、LEOの衛星コンステレーションが急増。プラスチックパッケージへの高まるニーズに対応するため、「Space EP」(SEP)、そして「SHP」といったラインナップの提供を開始した。SEPはLEOミッション向けであるが、SHPは放射線耐性が強化されており、静止軌道(GEO)ミッションへの対応も可能となっている。 そして最新のQML-Pは、2021年の初頭より、業界のタスク・グループが検討を開始。2022年の第4四半期に、米DLA(国防兵站局)から正式に承認された。制定はTIが主導し、NASAや業界とのやり取りを続けてきたという。ちなみにクラス名の「P」は、プラスチック(Plastic)を表しているということだ。 QML-Pは、放射線耐性がさらに高く、静止衛星のほか、深宇宙探査機にも使えるという。サイズは、従来のQML-Vに比べ、最大50%小型化。さらに高速化もされており、通信システムの用途などでは、通信速度の向上が期待できる。またピン互換性もあるため、ハードウェア設計を変えずに、セラミックからプラスチックへの移行が可能だ。